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社-05 [シトワイヤン-28]

「姫さまは舞を舞われる時、どの様な事を考えていらっしゃるのですか?」
「皆さんの幸福を漠然と祈念しながらです。」
「DVDではタイトルの代わりに舞われた時と場所を記していますが、タイトルを付けるとかは?」
「特に何かを表現しようとしている訳では有りませんので付けようがないのです。」
「例えば、死者の為に鎮魂の舞というのは難しいのでしょうか?」
「鎮魂ですか、結局残された者の為なのですよね、亡くなった方を偲び死後の安らぎをイメージして…。
他の舞との違いを出せるかはやってみないと分かりませんが、何か訳が有るのですか?」
「MAIHIME TOWNの住人たちが既存の宗教に因らない新しいお葬式をイメージしていまして。
姫さまのホログラム映像を使えないか、という問い合わせだったのですが、お葬式や法事用に鎮魂の舞をDVDにしたら需要が有ると思うのです。
今は葬儀を執り行わない人もいますが、そんな人でも最期に姫さまの舞で送られたいと思っても不思議は有りません。」
「いよいよ宗教団体になりそうですね、少し考えてみます。」
「姫さまはどなたかのお葬式を経験された事は有りますか?」
「祖父が高齢で他界した時に。
亡くなる一週間ほど前、お見舞いに行ったら凄く喜んでくれて、ねえお姉ちゃん。」
「だったわね、舞姫さまになる前だったけど、天女が迎えに来てくれたのか、とか話して。
伯父さん達は万里のお蔭で苦しまず安らかな最期を迎えられたと話してた。
苦しんで亡くなったり、若くして亡くなった人を送るのではないだけに、ひどく悲しいお葬式とはならなかったわね。」
「だろうな、高校生の時事故死した同級生がいてね、ホントに悲しいお葬式だった。
お母さんになんて、誰もなんて声をかけたら良いか分からないという感じでね。」
「そうでしたか、私は身近にそういった経験が無くて…、鎮魂について考えてみます。」
「和馬さん、MAIHIME TOWNの住人たちは火葬を考えているのでしょうか。
何かの映像で星条旗を掛けられて運ばれた棺を埋めるシーンが印象に残っていまして、お墓だらけになりそうですよね。」
「日本と違って土地に余裕が有るのだろう。」
「でも、増え続けるお墓って…。」
「どうなのかな、日本だと火葬して先祖代々の墓ならそんなに増えないし、ロッカー式納骨堂とか…、墓じまいする人もいれば、散骨とか樹木葬とか、調べてみたら随分多様化してるみたいだけどね。」
「お姉ちゃん、うちは先祖代々のお墓だよね。」
「お墓参りには行くものね、でもさ、大きな声では言えないけど、ただの石で出来たお墓、中に人骨の欠片が入ってると言っても、そんなに拝むほどのものでも無いのよね、本当は。」
「まあ、気持ちの問題だからな、智里みたいに唯物的に考える人には滑稽かも知れないが。」
「お墓がなくてもお爺ちゃんのことは忘れないですよ。
和馬さん、私達の祖父は、老い先短い年寄りの為に無駄金使わず、これからの子どもたちの為に使いなさいと日頃から話していた人です。
少しお転婆だった私のことを心配しつつも、私達姉妹をとても可愛がってくれて。
こうして思い出す事には墓参りと同じ意味が有ると思いませんか?」
「ああ、そうだな、気持ちの問題であり、宗教的な形式に囚われる必要はない。
葬儀やお墓が多様化してるのも価値観が形式に拘らない方向に動いているからかも知れないね。」
「将来はもっと変わりますよ。
友達と見たSF映画に、地球から遠く離れた所で事故死した人を宇宙葬と称し、カプセルに入れて宇宙空間へというシーンが有りましてね。
友達は、その宇宙旅行の設定を考えたら、貴重な動物性たんぱく質を、貴重なカプセルに入れて捨て、宇宙のゴミにするなんて馬鹿げてると話してました。」
「死んでしまえば、か、大学の友人に火葬なんて燃料の無駄だから、死んだら適当に埋めてそこに桜の木でも植えてくれと言ってる奴がいるがね。」
「実行して上げるのですか?」
「法的な制約が有って結構大変みたいなんだ、まあ、今の所は殺しても死なないぐらい元気なのだがね。」
「はは、殺されたら死ななきゃダメですよ。」
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