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改革-04 [シトワイヤン-29]

到着時こそ、姫さまの訪問先にするべき国ではなかったのかも知れないと思い不安だったが、後は王国の時とあまり変わらなかった。
両国民に対する配慮から、スケジュールは王国と差の無い様に組まれていて、我々も二つの国を比べる様な発言はしない様に心掛けた。
舞姫さまの祝福、人々は初めての体験に戸惑いながらも、胸の前で手を組み感謝している。
通訳によればテレビでも姫さまに対し否定的な発言をする人はいないそうで、姫さまの祝福をどう表現したら良いのか困ってはいるものの、宗教関係者から表立った発言はないと言う。
まだ戸惑っている最中なのだろうか。
警備の堅さに少し窮屈な思いをしたが、姫さまは王国から別の飛行機でやってきたハヤブサと遊ぶ時間を取ることが出来た。
また現地のラクダに、ふわりと宙に浮いて乗る姿は周りの人を改めて驚かせ跪かせた。
ラクダの方は、何となく嬉しそうに見えたのだが、私にラクダの気持ちは分からない。

「姫さま、舞の時以外で宙に浮かれるのを初めて目にしました。」
「そうですか、清香村では時々ふわふわしていたのですよ。
村人が見晴らしの良い大木の枝に休める所作って下さいましてね。
小鳥の為の巣箱を掛けた枝、リスと遊ぶ枝とか幾つか有るのです。
鷹匠用の腕カバーを頂いたので、今まで少し距離を置いていた子達と遊べる枝も用意して頂こうかしら。」
「同じ枝では不都合なことが?」
「猛禽類が飛んで来たら、小鳥やリスは寄り付きません、弱肉強食なのですから。」
「あっ、そういうことでしたか。」
「和馬さん、歴史上、人間も弱肉強食でしたよね。」
「はい、力有る者が弱き者を食い物にして来ました。
世界を見渡せば今でも、低賃金で働かざるを得ないというのは食い物にされてる様なものです。」
「国家間の所得格差については、どう見ています?」
「価値観の相違が有って簡単な話では有りません。
我々の価値基準からすると不幸に思える環境で有ったとしても、実は日々の暮らしが充実しているのだとしたら、幸福度という観点で捉えると低所得は必ずしも不幸ではなく、所得が少なくても物価が安ければ問題なく生きて行けます。
高額所得者でも日々不満を漏らしていたり、遺産相続で揉めていたのでは幸福度が高いかどうか怪しいですものね。」
「でも健康で文化的な生活、アフリカからはそれと程遠い映像が送られて来ますが。」
「所得の格差以前に、無秩序という印象を受けます。
子どもを沢山産んで、運よく生き残る事に託す草食動物みたいな。
アフリカの子どもを救えとかやっていますが、救ったら、飢えに苦しむ子ども達が将来多く誕生するだけのことかも知れません。
根本的な対策が必要でも、それをするだけの能力が無かったり、バカみたいに内戦をしている国が有って。
難民の問題も有り対策は必要なのでしょうが、もし、本格的な支援をしたら人口が一気に増えてしまう可能性を否定出来ません。」
「そして食糧不足という事ですか…。」
「綺麗ごとでは済まされない現実が世界の至る所に有り、地球市民改革は簡単なことでは無いのです。」
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改革-03 [シトワイヤン-29]

現地スタッフとは舞姫さまグッズの製造工場を従業員に優しい形で立ち上げる方向で話を進め始めた。
ここのスタッフ達は元々貿易関係の仕事をしているので、マーケットのことは分かっている。
舞姫さまグッズの中でも高級品を中心に製造販売して行くと仮定して試算した結果、充分従業員待遇を良く出来るとの結論に。
その上で舞姫さまグッズの販売実績を教えたら驚きつつも納得し、もっと利益を出せるかもしれないと。
そして、彼らの貿易会社を中心に、王国のスタッフとも調整をしながら、舞姫フレンズ協力企業を増やして行くことで話はまとまった。

「貿易関係の仕事がメインだからでしょうか、スタッフの皆さん、概算とは言え試算が早く優秀な印象を受けました、そして、視野の広さを感じさせて下さいましたね。」
「色々な国を見て来ているのだろう、だから改革の必要性を感じてもいるという事なのかな。」
「姫さま抜きでは改革は進まないどころか始まりもしないと話してたわね。
姫さまの祝福を感じて、改めて人の愚かさを考えさせられたとか。
軍事費を減らせたら、もっと豊かな国になれるだろうとも。」
「軍事産業もそれなりに経済を回す担い手では有りますが…、平和な世界は軍事産業で儲けてる人にとっては好ましからざる世界なのかも知れません。」
「かもな、軍事的衝突が有ればより儲かる産業か…。」
「戦争が科学を発展させた歴史は有るのよね、姫さまの力で人々が優しく大人しくなると、科学の進歩は停滞するのかしら。」
「それでも良いと思います、今は軍事に活かされる技術より環境保全を目指す技術が重要、それなら、優しい人程、熱心に研究して下さるのではないでしょうか。」
「そうだな、こうしてる間にも砂漠化が進行しているという、地球を大切に思う気持ちがあれば…。
だが、その前に武装して自己主張ばかりしてる連中は、姫さまの祝福を感じることが出来るのだろうか。」
「自爆テロを命ぜられてた連中は、姫さまの祝福を感じて思い直したと聞いていますが、リーダークラスは冷静で自分の考えを変えないかも知れませんね。」
「現時点で姫さまの影響下にあるのは僅かだろうしな。」
「そんな連中は巡礼に来ないでしょうし、下手に来られても危険です。」
「社を破壊しに来る可能性はどうだろう。」
「下見に来て、ホログラム映像から影響を受けてくれれば良いのですが、いきなり攻撃ではどうにもなりません。」
「警備はしてるそうだが限界はあるだろうな。
姫さまは、自身のホログラム映像に、このエリアを守ってくれるよう、お願いしたと話していたが、どれぐらいの効果なのかは未知数だろ。」
「王国の社は、今も毎日長蛇の列と聞きました、ここの社もそうなると良いですが、そこを狙ってのテロが起きては…。」
「起こして欲しくはないが、もしテロが起きたとしたら、それだけ舞姫さまの影響を恐れていると言う事になるのだろうな。
ここでの初日に自爆テロを指示した奴は、すでに姫さまを恐れていたと考えて間違いないだろう。」
「そうね、姫さまの影響力は半端ではない、それを感じ取る知能を持ち合わせてはいたのね。
でも、暴力で何とかしようというのでは、やはり猿並みだわ。」
「あら、それではお猿さんに失礼ですよ。」
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改革-02 [シトワイヤン-29]

今回訪問の両国、関係は良好と言えないので、王子と実業家の仲は悪いのかと思っていた。
だが、社周辺の建設現場で作業員に相手国の進捗を公表して競わせてはいるものの、スタッフ達は連絡を取り合いファンクラブとしての舞姫フレンズで協力していく話が進んでいる。

「町の映像を見てると舞姫さまのヘッドスカーフを身に着けてる人が目に付きますね。」
「王国と同時発売にしたからね、王国からの映像を見て欲しくなったのでしょう。
デザイナーがヘッドスカーフなら問題ないだろうと提案してくれて、サンプルを両国のスタッフに見せたら好評だったそうなの、思い切った数を用意して正解だったわ。」
「舞姫さまの認知度はすでに高かったのだね。
あの人達は舞姫フレンズだと考えても良いのかな。」
「良いのではないですか、女性の方が受け入れ易いでしょう。
姫さまの祝福は全くの平等です、戒律によって差別されている彼女達にとって舞姫フレンズになることは自然だと思います。
時に対立して来た二つの国の国民が同じグッズを身に着けているのは嬉しいことです、舞姫フレンズは、また国境を越えましたね。」
「ここのスタッフが話してくれたのだが、お世話になった王子のスタッフとは頻繁に連絡を取り合っているそうで、国同士の関係は微妙だが、王子の改革には賛成、イスラム教そのものの改革が必要だと。
ただ急激には変えられないので、舞姫フレンズをファンクラブとして組織化しながら少しずつ人の在り方を問いて行く。
地球市民党も当分表には出せないが、我々も地球市民として平和な地球にして行きたいと話してくれたよ。」
「ファンクラブの体制はどういう形を描いておられましたか?」
「出来れば、ヘッドスカーフの工場などをこの国に置かせて欲しいと、王国でもグッズ工場の話が出ていたが、分担して製造、互いに輸出入という形にしたいとか。
舞姫フレンズ自体は言語別に展開しているから、こちらの言語でも、スタッフには他国からも参加して貰える様にして欲しいね。
内容としては、姫さまの活動を、まずは欧米抜きの日本を中心に伝えて行く。
欧米と日本ではイメージが全然違うそうでね、姫さまの祝福を感じてその差が広がったそうだ。」
「今後の事を考えたらグッズはここでも生産して行くべきだけど、従業員に優しい職場であるという条件を付けたいわね。」
「そうだな、舞姫フレンズ協力企業と名乗れる条件を満たせたら、様々な形で協力し合える様にして行きたいな。」
「そこを軸として、舞姫フレンズと全く関係の無い企業でも、協力企業として繋げて行き、巨大企業連合として世界に影響力を持って行くのね。」
「壮大な計画ですが方向性は悪くないです、初期段階で中東の企業が関係する意味は大きいと思います。」
「舞姫連合か…。」
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改革-01 [シトワイヤン-29]

国賓のお供としての滞在、緊張はしたが快適に過ごせた。
それは姫さまも同じだったようで、特に鷹匠用の腕カバーをプレゼントされ、仲良くなったハヤブサを腕に止まらせたり、ラクダに乗せて貰うという体験は何時も以上に楽しそうだった。
そして、王子に見送られ二つ目の訪問地へ飛ぶ。

共和国の空港に着陸。
だが、しばらく飛行機内に留まる様、指示を受けた。
そのしばらくが長い。
着陸後二時間ほどしてようやく情報提供。
着陸の少し前、姫さまの到着に合わせ自爆テロの準備をしていた者達が出頭して来たそうだ。
彼らは姫さまの祝福を感じてか洗脳が解け、すっかり自爆する気が失せたが、使命を果たさなければ、どんな目に合わされるか分からないと保護を求めて来たのだと言う。
それを受けて、軍と警察が安全確認に動いている。
その指示を出している連中も姫さまの祝福を感じ、絶対に守るべき存在だと気づいたそうだ。
そうでなくとも、王国の国賓がこの国で襲われでもしたら、戦争になりかねない。
襲った連中が反政府組織で有ったとしてもだ。
結局、四時間ほど機内で待たされたが、その間に準備が整い、ホテルまでの道は軍の兵士によって守られ、当初の予定に無かった歓迎を受ける事となった。
待たされてる間も、姫さまの祝福は人を選ばず癒していたと思う。
それは兵士達の態度に現れていて、王国で国賓として迎えられた時と同じ丁重な扱いを受けた。
我々を招待した実業家は到着時の不手際を詫びたが、これで国を挙げての歓迎が出来ると話す。
王子とは違い、思うように行かない事が多々有ったようだ。
それでも歓迎の晩餐など、王国と遜色のないもてなしをしてくれた。

「智里、姫さまはどうしてる?」
「部屋で通訳の女性と話してたわ、この国の実情を教えて貰うとかで。」
「スタートでつまずいたが、大丈夫かな。」
「多分ね、待たされてる間もマイペースで調べものをしてたから。
今日は本格的な武器を目の当たりにして少し考えてたけど。」
「あの武器に実弾が入ってると思うと落ち着かないよな、つくづく平和な日本を実感したよ。」
「日本で世界平和を語っていても、世界の現実を実感出来ていなくては、まさに机上の空論ですね。」
「しかし我々の到着に合わせて自爆テロを計画していたとはな、スタッフの話では最近無かったそうだ。」
「やはり、宗教的な意味合いから万里の到着に合わせたのでしょうね、警備体制が分からず私達を直接の標的とはしていなかったと聞きましたが。」
「王国での状況は、こちらにも伝わっているだろう、多くの人が胸の前で手を組む様を映像で見て、どう思ったかだな、映像を通しても祝福は感じられたと聞くが…。」
「通訳の女性はイスラムの戒律に対して否定的でした、学歴の高い人ほど疑問を抱いているとか。」
「ただ、全体的にどうなのかは分からないよな、彼女の様な人が少数派で有る可能性は否定出来ないだろ。」
「でしょうね、思っていても口にも出せず従うのみの人は少なくないかも知れません。
戒律が社会の常識な訳ですから、疑わない人ばかりでもおかしくないです。」
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社-10 [シトワイヤン-28]

夏は軽く四十度を超えると言うこの国でも、今の季節は過ごし易く、舞を披露するイベントは舞姫さまの社近くに造られた仮設の屋外ステージで。
王子から、この地に一大観光施設が造られるという話の後、歌や踊りが続く。
観客たちは姫さまの祝福を感じながらそれを楽しむ。
しばらく間を開けて、姫さまの出番。
人々が胸の前で手を組んでくれたのは、なんかホッとした。
王子が初めて姫さまを前にしたら、どうすれば良いか戸惑うだろうからと、苗川で始まった感謝のポーズを事前に教えさせたのだとは後で聞いた話。
すでに姫さまの祝福を感じていた人々は素直に従ったと言う事だ。
このステージには鷹狩で使われているハヤブサが連れて来られた。
前もって姫さまと対面済で、もうすっかり懐いている。
舞が始まり、姫さまが呼ぶ仕草をすると、飼い主の腕から舞い上がり姫さまの下へ、姫さまに挨拶するような仕草をした後はステージを右へ左へと、広い屋外ステージならではの演出となり舞を盛り立てる。
しばらくすると姫さまの舞は宙に浮き始める。
勿論種も仕掛けも無い。
ハヤブサは姫さまの下を何度も通り抜けた後、飼い主の腕へ。
姫さまは、舞を終え、静かに舞い降りる。
観客はこの物理法則を無視した現象を目の当たりにしても自然に受け止め、強く感じられる祝福に拍手では無く胸の前で手を組み感謝の言葉をつぶやくのみだった。
私達の心配事は全て吹き飛び、舞姫さまの社でのイベントは大成功に終わった。
その夜。

「姫さま、お疲れでは有りませんか?」
「大丈夫ですよ、少し調子に乗り過ぎて舞い上がってしまいましたが。」
「ニュートンが困惑してリンゴを丸呑みしそうな舞でしたが、やはり我々に説明する事は不可能なのです?」
「万有引力の法則に当てはまらない例外が有っても良いじゃないですか、そう何事にも例外というのが有るのですよ。」
「例外ですか…、舞は勿論好評で、テレビで見た人達も姫さまの祝福を感じたとの報告が有りました。
日本では映像を一分だけマスコミに流し、DVDの制作に入ります。
とろで、今日は社のホログラム映像を長めに見ておられましたが、何かありましたか?」
「いえ、ただ、この国の人達が戒律という呪縛から解き放たれ、王子の指導の下で有っても地球市民の一員として私達と共に有らん事を、彼女にはそれを手伝ってくれるようお願いしておきました。」
「彼女って、ご自身の映像ですか?」
「ええ、社に来て下さる人々を幸せにする、その為の社ですので。」
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社-09 [シトワイヤン-28]

言葉に関して不自由しなかったのは英語を話せる人達が世話をしてくれたからだ。
彼らは色々な事を教えてくれた。

「王子は女性差別を無くして行こうと考えておられるようです。
日本の少女を国賓として迎えるのは、どう考えても異例なことですが、今回の事を女性の地位向上の象徴にしたいとか、でも宗教指導者とは対立が有って、女性スタッフの方々は王子に頑張って欲しいと口々に話しておられました。」
「そういう事か、ならば我々も協力しないとな。」
「今でも周辺諸国に比べればマシだと話してたわね、それでも納得出来ないおかしな戒律が有るのだとか。」
「宗教指導者たちはどうしてるのだろう、姫さまの祝福は人を選ばないだろ。」
「姫さまを国賓として迎える事に反対していた人達は静かになったそうです。
明日は舞姫さまの社で舞を披露、全国放送されるそうですので色々楽しみですね。」
「パリでも舞の時は祝福の力が強まったからな、同じことが起きれば宗教指導者達も考える事が増えるだろう。」
「また宙で舞って下さったら、パリの比では無いかも。」
「姫さまの事、女性スタッフ達はどう捉えていた?」
「大きな声では言えないけど、祝福を感じて、イスラムの教えなんてどうでも良くなった、という人がいたわよ。」
「それって、国としては困ることじゃないのかな。」
「王子としては政教分離を進めたいみたい、因みに王子の支持者は多いそうで、次期国王になって改革を進めて欲しいのだとか。」
「でも、簡単ではないということか…。」
「そこを姫さまの力でということなのでしょうね。
すでに多くの人が祝福を感じ、更に今は祝福を感じられるエリア目指して人が集まって来ているとか。
でも国賓なのだから宗教指導者も止められないでしょう。
明日は巡礼の目的地が舞姫さまの社になりますが…。」
「宗教指導者にとっては、新たな異教徒の聖地が国内に出来ると感じてもおかしくない、そこへ向かう巡礼の民は異教徒では無く自分達の教えに従って来た人達、明日、何事も無く舞を披露して頂ければ良いのだが。」
「姫さまの祝福によって暴力的な衝動は抑えられていると思うけど、少し心配では有るわね。」
「王子としては宗教団体ではなく、舞姫フレンズをファンクラブとして組織化して行きたいと話していた。
舞姫さまという美しきパフォーマーのファンクラブが宗教指導者にとやかく言われる筋合いはないという事だな。」
「それを、素直に受け入れるでしょうか?」
「そこが王子の挑戦だね、彼は舞姫フレンズを通して少しずつ意識改革を進めて行きたいとも話していたよ。
何年か先に戒律を緩く出来る様に、王国で有っても国民の資質を上げて行きたいのは、地球市民党と同じだそうだ。
まあ、宗教指導者達だって何時までも生きてる訳ではないからと笑ってたよ。」
「そうね、舞姫フレンズとなれば、宗教について考えるのは自然な事だわ。
王子は姫さまの力で国を変えるつもり、だから、まず、舞姫さまの社だったのね。」
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社-08 [シトワイヤン-28]

グループ企業でなくとも、知り合いの社長達、そう市民政党若葉の立ち上げに協力してくれた社長達は互いに協力し合っている。
その形を舞姫さまの名の下、世界に広げて行くのは面白いと思う。
地球市民党の拡大に企業の経済的メリットを加味出来れば党員が増えるという話になった。

「中東の企業が参加する可能性は有るかしら?」
「そうだな、舞姫さまの社は現地の企業と共同で建てた、その辺りの繋がりを発展させれば可能だとは思う、だが問題は宗教指導者の動きだろ。」
「姫さまのことが、まだ充分伝わっていないから本格的に排除の動きまでには至ってないが、快く思ってはいないだろうという話でしたね。」
「DVDが売れ始めたからな、ヨーロッパからの情報をどう判断してるかだね。
こちらとしては、政治団体、地球市民党のシンボルで通すのだけど。」
「今向かってる先は、次期国王となりそうな王子の力で問題ないと思いますが、そこで歓迎され過ぎた場合、二つ目の訪問国がどう出るか微妙ではありませんか?」
「ああ、王子は国賓として招いてくれたが、それに負けじと歓迎してくれるのか、その逆になるのかだが、まあ結局、行ってみなくては分からないな。」

空の旅は長い、時差を調整するために仮眠を取ったりしたが、今後の様々な可能性が頭をよぎり落ち着かなかった。

空港で、にこやかに出迎えてくれた王子は、到着前から姫さまの祝福を感じていたと笑う。
出迎えの人達は一様に胸の前で手を組むという、日本で定着し始めた姫さまへの感謝スタイル、女性は姫さまグッズを身に着けているが、全ては王子の指示なのだろう。
随行のスタッフ達は全員テロに備えて緊張していたが、何事もなく王宮へ。
歓迎行事はゆったりとしたスケジュールで組まれていて、王子の姫さまに対する気遣いが随所に感じられる。
通訳の人によると、町の人達は姫さまの祝福がイスラムの教えに無い体験という事で戸惑いながらも癒されていると教えてくれた。

王子は原油に依存しない国作りを考え、改革を進めている。
ただ、王国と地球市民党とは真逆の存在だと思う。
おそらく王国を取り仕切っている人達は地球市民党の理念に賛同出来ないだろう。
それでも、姫さまの力が大きいとはいえ、我々を受け入れてくれた王子は明日を見据えるリーダーだ。
今回の交流が今後の友好関係を構築して行く足掛かりになれば良いと考える。
王子が何を何処まで考えているのかは分からないのだが。
もっとも、民主主義を名乗る政権でも、危うい政治をしている国は幾つも有る。
そんな国よりは安心して付き合える国だと私達は判断した。
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社-07 [シトワイヤン-28]

中東へはキャッシーが用意した舞姫さま専用機で。
最初に舞姫さま専用機の話を聞いた時は数人乗りのプライベートジェットをイメージしたのだが、苗川から一番近い地方空港で私達を待っていたのは、姫さまと智里専用の部屋を備えた七十人乗りの機体。
同行するスタッフのシートはファーストクラス用の物だが、姫さまのシートは、その体格に合わせて作られた特製だ。
フライト中の機内で…。

「この規模の専用機とはね、聞いていた以上の仕上がりで、アメリカの富豪はやることが違うわね。
姫さま関連で儲かってるからこれぐらいは安いものなのかしら。」
「でも利用頻度を考えると、もったいない気がします。」
「まあ、財政難に苦しむ日本の地方空港に格納庫を作り、使ってない時は見学も可能というスタッフからの提案を受け入れて貰えたから良いじゃないか、これなら見学だけでも充分客を呼べるだろ。
あまり飛ばさない方が長持ちすると言うし、姫さまに度々アメリカに来て欲しいというキャッシーの、気持ちの表れだからな。
MAIHIME TOWNの別荘も、姫さまの為に森と綺麗な水の小川や池を作ると言うし。」
「気候的にどうなのかしら、水の確保は出来ると聞いたけど。」
「不足する分は海水の淡水化装置を使うのだろう、自然のままに出来ないのは残念だが、森林火災で焼失した分には遠く及ばなくても森を広げて行きたいと話していたね。」
「雷対策や竜巻対策もしっかりして行くそうですが、そこまでして不便な所に町を作ると言う事に拘るのは何か有ったのでしょうか。」
「キャッシーは麻薬や覚せい剤、銃のない町を作りたいと話していただろ、その辺りに思いが有るのではないか。
町で働いてる人達はその考えに共感しているそうだ。
自由な社会だから町を隔離とは出来ないが、隣町からの距離が防波堤の役目を果たすだろうし…。
舞姫さまの社を目指して来る人に薬の売人はいないと信じたいね。」
「広大な私有地なのよね、行政との関係はどうして行くのかしら?」
「沢山税金を納めているだろうから上手くやって行くのではないかな。
州知事とも話し合ってるそうだよ。
日本の社みたいに観光客を呼び込むことになれば州としても嬉しいだろう。
すでに大きな投資をしている訳だからな。」
「大きいですが身内の企業でお金を回している様なもので、税金以外は舞姫さまを取り巻くグループの外へは出て行かないのです。
この事業は自分の資金が自分の枠内で移動してる感覚なのだと、キャッシーのお爺さまが話しておられました。
因みにユニットハウス関連で儲けさせて頂いてるうちの会社もその一部と認識されていて、舞姫さまグループの一員なのだとか。
メリットが有るのなら何時でも資本提携しようと話して下さいました。」
「間違いなく協力関係では有るからな、宗教法人ではなく株式会社を姫さまは望まれておられるのだから、巨大企業というのも…、世界に影響力を与えるレベルの巨大企業を誕生させることは不可能ではない…、問題は独占禁止法かな。」
「一つの企業にするのでなく、企業が姫さまの名の下に協力関係を築いて行くということなら、巨大企業以上に大きく出来ませんか?」
「そっか、キャッシーのお爺さまと清香や清香のお父さまは、資本的に全く提携していなくても、MAIHIME TOWNやこの専用機関連で協力してる、こんな関係が世界に広がれば地球市民党の理念も広がりそうね。」
「舞姫さまの名の下にか…。」
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社-06 [シトワイヤン-28]

「なんか、そんな話ばかり嫌だな。」
「あっ、姫さま御免なさい。」
「和馬さん、もっと楽しい話題はないの?」
「有ります有ります、姫さまの縁で知り合ったカップルから、舞姫さまの社で結婚式を挙げられないかとの問い合わせが有りましてね。」
「結婚式か…。」
「智里にも予定有るの?」
「いえいえ、言い寄って来る人は少なからずいますが、何か違う気がしまして。
そう言う和馬さんはどうされるのです、清香さんと愛華さん、日本で重婚は違法ですよ。」
「事実婚で通す事になりそうだよ、想定される問題を、お金で解決出来るだけの余裕は有るからね。
清香と愛華の同性婚という選択肢も考えてはいるが。」
「和馬さんが仲間外れなのですか?」
「生まれて来る子達は私の子だからね。
けじめとして結婚式や披露宴はしたいと考えている。
入籍するのでなければ結婚式を挙げてはならないという法律はないだろ。」
「やはり舞姫さまの社でですか?」
「ああ、結婚式を挙げたいという問い合わせが有ってから、彼女達がその気になってね。
高齢出産は絶対避けたいから早めにとは話し合って来た、清香は苗川の社に結婚式場の併設を指示し、愛華は結婚式の基本プログラムを検討させてるよ。
二人とも社に於ける結婚式の形を、既存のものと違うオリジナルなものに出来ないかとね。」
「万里に祝福の舞を舞わせるとかは駄目ですよ。」
「そんな贅沢は許されないだろうが、二人には是非参列して頂きたいものだな。」
「話はもうそこまで進んでいるのですか。」
「出会ってから長いからね、二人と付き合っていることは、ずっと公言して来たから世間の反発は少なくなっているよ、多分。」
「でしょうね、相手に隠す形の二股ではないですし。」
「問題はだな。」
「問題が有るのですか?」
「舞姫さまの社を冠婚葬祭で使うと、いよいよ宗教団体みたいになってしまうということなのだが。」
「はは、万里も諦めてるのでしょ?」
「そうね、でも、あくまでも株式会社、宗教法人は立ち上げません。」
「税制面で優遇されるみたいだけど。」
「沢山稼いで沢山税金を納めれば良いのです。
節税だなんて小さいことを言い出すスタッフはいないでしょ?」
「かなりの投資をしてる筈なのに常に収入が上回ってますからね。
万里のお小遣いで買った潰れかけの店が直ぐに持ち直して利益を生み出すといった具合に。」
「株式会社舞姫はスタート時こそ苗川銘菓舞姫の商品化に時間が掛かったけど、後は順調に巨大化してるね、従業員も増えたのだろ。」
「はい、労働環境、労働条件を良くして来ましたので入社希望が多いのです。
今はその希望を叶えてあげる為に事業拡大という面が有るのですよ。
新しい事業所は分散させ苗川に集中させない様にしています。
観光客が増え過ぎていますからね。」
「姫さまが苗川に滞在中は特にな、でも姫さまが旅行中でもそれなりに観光客は来ていたみたいだね。
何でも聖地をゆっくり散策出来るチャンスなのだとか、リピーターの方々は初めて舞姫さまの祝福を感じた日のことを思い出しながらのんびりしていかれるそうだよ。」
「あっ、そうだったのですか、売り上げが落ちるから旅行に行かないで欲しいと言われない理由はそれだったのですね。」
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社-05 [シトワイヤン-28]

「姫さまは舞を舞われる時、どの様な事を考えていらっしゃるのですか?」
「皆さんの幸福を漠然と祈念しながらです。」
「DVDではタイトルの代わりに舞われた時と場所を記していますが、タイトルを付けるとかは?」
「特に何かを表現しようとしている訳では有りませんので付けようがないのです。」
「例えば、死者の為に鎮魂の舞というのは難しいのでしょうか?」
「鎮魂ですか、結局残された者の為なのですよね、亡くなった方を偲び死後の安らぎをイメージして…。
他の舞との違いを出せるかはやってみないと分かりませんが、何か訳が有るのですか?」
「MAIHIME TOWNの住人たちが既存の宗教に因らない新しいお葬式をイメージしていまして。
姫さまのホログラム映像を使えないか、という問い合わせだったのですが、お葬式や法事用に鎮魂の舞をDVDにしたら需要が有ると思うのです。
今は葬儀を執り行わない人もいますが、そんな人でも最期に姫さまの舞で送られたいと思っても不思議は有りません。」
「いよいよ宗教団体になりそうですね、少し考えてみます。」
「姫さまはどなたかのお葬式を経験された事は有りますか?」
「祖父が高齢で他界した時に。
亡くなる一週間ほど前、お見舞いに行ったら凄く喜んでくれて、ねえお姉ちゃん。」
「だったわね、舞姫さまになる前だったけど、天女が迎えに来てくれたのか、とか話して。
伯父さん達は万里のお蔭で苦しまず安らかな最期を迎えられたと話してた。
苦しんで亡くなったり、若くして亡くなった人を送るのではないだけに、ひどく悲しいお葬式とはならなかったわね。」
「だろうな、高校生の時事故死した同級生がいてね、ホントに悲しいお葬式だった。
お母さんになんて、誰もなんて声をかけたら良いか分からないという感じでね。」
「そうでしたか、私は身近にそういった経験が無くて…、鎮魂について考えてみます。」
「和馬さん、MAIHIME TOWNの住人たちは火葬を考えているのでしょうか。
何かの映像で星条旗を掛けられて運ばれた棺を埋めるシーンが印象に残っていまして、お墓だらけになりそうですよね。」
「日本と違って土地に余裕が有るのだろう。」
「でも、増え続けるお墓って…。」
「どうなのかな、日本だと火葬して先祖代々の墓ならそんなに増えないし、ロッカー式納骨堂とか…、墓じまいする人もいれば、散骨とか樹木葬とか、調べてみたら随分多様化してるみたいだけどね。」
「お姉ちゃん、うちは先祖代々のお墓だよね。」
「お墓参りには行くものね、でもさ、大きな声では言えないけど、ただの石で出来たお墓、中に人骨の欠片が入ってると言っても、そんなに拝むほどのものでも無いのよね、本当は。」
「まあ、気持ちの問題だからな、智里みたいに唯物的に考える人には滑稽かも知れないが。」
「お墓がなくてもお爺ちゃんのことは忘れないですよ。
和馬さん、私達の祖父は、老い先短い年寄りの為に無駄金使わず、これからの子どもたちの為に使いなさいと日頃から話していた人です。
少しお転婆だった私のことを心配しつつも、私達姉妹をとても可愛がってくれて。
こうして思い出す事には墓参りと同じ意味が有ると思いませんか?」
「ああ、そうだな、気持ちの問題であり、宗教的な形式に囚われる必要はない。
葬儀やお墓が多様化してるのも価値観が形式に拘らない方向に動いているからかも知れないね。」
「将来はもっと変わりますよ。
友達と見たSF映画に、地球から遠く離れた所で事故死した人を宇宙葬と称し、カプセルに入れて宇宙空間へというシーンが有りましてね。
友達は、その宇宙旅行の設定を考えたら、貴重な動物性たんぱく質を、貴重なカプセルに入れて捨て、宇宙のゴミにするなんて馬鹿げてると話してました。」
「死んでしまえば、か、大学の友人に火葬なんて燃料の無駄だから、死んだら適当に埋めてそこに桜の木でも植えてくれと言ってる奴がいるがね。」
「実行して上げるのですか?」
「法的な制約が有って結構大変みたいなんだ、まあ、今の所は殺しても死なないぐらい元気なのだがね。」
「はは、殺されたら死ななきゃダメですよ。」
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