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智里-09 [シトワイヤン-21]

メロディー言語検索システムがベータ版から正式運用されるのに合わせ、苗川市の体育館でイベントが行われた。
全体を編集して放送するテレビ局はロスアンゼルスと日本の二社。
その二社が協力して撮影を行う。
イベント準備期間中、特別ゲストの存在は伏せられていたが、万里が出演するとあってチケットは直ぐに売り切れた。
入場資格はメロディー言語検定五級以上の者。
撮影目的なのでテレビに映っても構わない人という条件が付く。
オープニングは万里によるゲストの紹介。

『こんにちは♪ 鈴木万里です♪ みなさん今日はようこそおいで下さいました♪ 』

万里はメロディー言語の意味に合わせ日本語で歌う。

『初めに紹介させて頂くのは♪ タイから来て♪ 苗川で働いている♪ 私達の仲間です♪ 』

紹介されて出てきた女性はタイ語で素朴に歌う。
会場にタイ語の分かる人はいないが、全員、何を話しているのかメロディーで理解する。
自己紹介の後、彼女はタイの歌を一曲披露してくれた。
続いてはイタリア人男性、イタリア語でオペラ調に歌っての自己紹介をした後、美しいテノールでオペラから一曲。
こんな調子でアラビア語、スワヒリ語と続いた後に英語、スペシャルゲストの番となる。
万里は特に紹介するでなく、そのゲスト一番のヒット曲を英語で歌い始めた。
そこに登場したのは現在日本ツアー真っ最中の人気女性歌手。
途中から万里と一緒に歌い始める。
客席は興奮を抑え切れない。
洋楽ファンでなくとも知っている歌手の登場は、高校生でも購入し易い価格のチケット代から想像すら出来ないことなのだ。
ヒット曲に続きメロディー言語での対話となる。
日本語と英語での歌の掛け合いが始まるが、途中から万里のピアノにスキャットで応える大物女性歌手の歌声は鳥肌もの。
万里に会えて嬉しいという気持ちが観客にも充分伝わったところで、他のゲストを交えてとなる。
英語の歌にスワヒリ語の歌で応えても、歌が対話として成立している状態はとても奇妙な光景。
タイ語の素朴な歌とオペラ調が何ともミスマッチだったりするのだが当人たちは意に介していない。
その光景は、メロディー言語を理解している者にとって…、お遊びで始まった言語が本当に国境を越えた瞬間。
言語構築のメインスタッフの中には涙を浮かべる者もいる。
私たちの大いなる遊びはここに一つの完成を見たと言って良いと思う。
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