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来日-03 [シトワイヤン-22]

苗川市民祭は、本間氏が苗川市長になって以来、市民政党若葉の象徴的な祭りとなっている。
今年は、苗川大改造の内、一つの事業が完成したことも有り視察に訪れる人が多い。
その中で、海外からの地球市民党関連は自分たちが受け持つことに。
市民政党若葉発起人の肩書で挨拶をし、しばらく話をした後は担当スタッフに任せる。

「お疲れ様です。」
「おお、お疲れ、智里ちゃんの方も本日終了かい?」
「市で受けたお客様は終わりですが、夜は株式会社舞姫取締役としての接待が残っています。」
「大変だね。」
「ええ、キャッシーからは、ビジネスパートナーとして私が信用出来ないと感じたら手を組まないと言われてまして、判断力が試されています。」
「智里ちゃんを信頼してのことなんだね。」
「彼女は万里を広く世界に知らしめて行くことで人を幸せにしようと考えています。
人を幸福にするビジネスをしたい、というのも彼女のお爺さまが、かつて進めた事業では人を不幸にした事が有るそうで。
その反省からお爺さまは事業転換をされ、キャッシーも起業するなら人に喜んで貰える会社にしようと。」
「なるほど。」
「万里は頻繁に渡米出来ません、その状態で効率よくファンを増やしていくには今夜の客人と手を組むのが早いと考えています。
日本に来るぐらいの人ですし、メールでやり取りした範囲では問題ない思っていますが、私より万里がどう感じたかでを最終判断とするかも知れません。」
「それが無難かもな、ところで、今日の客人はどうだった?」
「市長筆頭補佐とか適当に付けられた肩書で挨拶、少し話をして後はスタッフ任せです、踏み込んだ話はしていませんが、思っていたより苗川大改造の本質が理解されている様で嬉しかったです。
お一方は治安の悪い国からご訪問で、特に。」
「かなりひどい国?」
「はい、殺人事件は日常茶飯事だそうで、麻薬対策が進まないと嘆いておられました。
苗川での防犯対策を聞かれましたが、出かける時は鍵を掛けるぐらいしか思い浮かばなくて。
鍵を掛ける習慣の無いお宅が未だに残っていると話すと驚かれました。」
「その辺りの人を疑わない心が苗川大改造に繋がっているのだよな。」
「ええ、そんな話をしたら、人を見たら泥棒と思わなくてはいけない国だそうで、落ち込まれて…。」
「同情しか出来ることは無さそうかな。」
「万里のポスターを差し上げたら喜んでおられましたよ、DVDでご覧になられた事が有るそうで、明日の舞を楽しみにしてると。
和馬さんが担当されたお客さまは如何でしたか?」
「国によって程度に差こそあれ似たような感じかな、まあ、万里ちゃんのポスターを差し上げてからの反応は皆さん同じだったよ。」
「ほんとはDVDを差し上げたかったのですが、市の担当としてお会いしている以上個人的なプレゼントを差し控えなくては行けなくて残念でした。」
「明日の舞を見たら自費で買って帰るだろう、勝手に宣伝もしてくれるさ。」
「ですよね、和馬さんも明日は絶対見逃しては駄目ですよ。」
「ああ、折角手に入れたチケットだ、生で見たいよ。
ライブビューイングも各地で開かれるそうだが、万里ちゃんの舞を生で見られるチャンスはそうそうないからな。」
「そうなんですよ、私でさえ練習を見ていなくて、そもそも練習してるかどうかも怪しくて、打合せはしているそうなのですが。」
「前から?」
「五年生までは普通に練習していましたが、創作の部分が多くなってからは、本人曰くイメージトレーニングをしているそうです。」
「万里ちゃんの舞は不思議な魅力に溢れている、お客さま方も癒されて頂けると良いのだが。
舞姫さまの舞を見るために来日を決めたという方もみえてね、MAIHIMESAMAは英語でも通用し始めてるみたいなんだよ。」
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来日-02 [シトワイヤン-22]

夏休み期間中は苗川を訪れる海外からの客人が多く予定されている。
苗川市で進められている事業の一部が完成したのを機に視察という人達だ。
智里は…。

「和馬さん、暮らし易い街に住むには、住人に多少の義務が発生するという事、海外ではどんな認識なのでしょう?」
「どうだろう、暮らし易さの基準は人それぞれだからな。
どんな建物に住むのかでは無く、どんな人達の住む街なのかが大切、苗川の人達は皆さん理解しておられるが、それを当たり前と思うかどうか。
テレビ番組を通して苗川の事を知った人は、人間関係に憧れる人と面倒そうで嫌だという人に分かれているだろ、案外似た様なことじゃないのか?」
「地域社会とのつながりが大切だという事を面倒で済ませる人、都会では多そうですね。
苗川へ移住して来る人達は納得した上ですから問題になっていませんが。」
「夏祭りに絡めてその辺りのプログラムも用意しようか。」
「そうですね、市民政党若葉としても、行政サービスに対して受け身にならない様、強調しておきたい所です。」
「舞姫さまの舞を三回お願いして、そこに来客を集中させる方向でスケジュール調整してるのだろ。」
「はい、ピークを三つに分ける作戦です。」
「大きな企画でなくて良いから、それに合わせて三回開きたいね、スタッフは充分確保出来るかな?」
「大学生対象の募集に対して他県からもかなりの申し込みが来ています、今から準備すれば大丈夫でしょう。
「他県からだと宿泊関係は大丈夫なのか?」
「災害時のテント生活体験と組み合わせました。
テントは訓練の為として本間さんがあちこちから集めたり、市の備品として購入した物、場所は整地作業の済んだ所が確保して有ります。」
「流石だな、メインスタッフに心当たりは有る?」
「はい、苗川高校生部会は高校を卒業しても籍を残して貰っていますが、メインは高校生という事でバックアップをお願いしています。
余力は有るのですよ。」
「こき使い過ぎてるとかないよな?」
「そこは各部署のリーダーに気を付けるよう指示を出して有りますし、全員に対して問題を感じた時に連絡する窓口がアナウンスされています。
バランスの取れた時間の使い方は高校生部会の研究テーマの一つでも有ります。
真面目に働いた人にはご褒美として特別イベントが用意されていますので、馬車馬の如く働いてくれても心は痛みませんが。」
「万里ちゃんのイベントか…、万里ちゃんが忙しくなり過ぎるのが心配だと思いつつも、沢山活躍して欲しいのだよな。」
「大丈夫ですよ、スケージュールをもう少しハードにしないと、疲れて甘えん坊さんモード、いつも以上に可愛い万里になりません。
最近スキがなくなって来ましてね、お姉ちゃんにもっと甘えて良いのよ、と言っているのですが。」
「はは、彼女も一歩ずつ大人になっているのだね。」
「大人になっても、私の妹、甘えて欲しいのです。」
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来日-01 [シトワイヤン-22]

「万里ちゃん、キャッシーが来日するのは知ってた?」
「はい、とても楽しみです、和馬さんは会ったこと有るのですか?」
「いや会ったことは無いが、なかなかの美人だそうだね。」
「浮気はだめですよ。」
「はは、大丈夫さ。」

万里は中二になってから少し背が伸びたそうだ、私には分からないくらいだが。
それでも、顔つきは明らかに大人びて来ている。
彼女の持つ不思議な魅力、彼女のオーラは成長と共に失われると予想する人がいたが、その予想に反し更に増していると思う。
大好きな人で守ってあげたいが、所謂異性に対する愛華や清香への感情とは大きく違うし、何故か守られている感覚も存在する。
一緒にいるだけでとても幸せな気分になる不思議な存在であることは全く変わらない。

「キャッシーとは良く話すの?」
「いえ、休みの日に、たまにテレビ電話で話しますが時差の関係が有り時間が合いにくいのです。
普段は姉がメールのやり取りをしているのを確認しています。」
「英語には慣れたみたいだと聞いているが、どう?」
「はい、和馬さんから、英語で話す時は英語で考える、と教えられたのを実行しています、たまに英語で考えて日本語で話してるのですよ。」
「智里ちゃんより余裕が有るという情報はホントなんだね。」
「余裕が有るというか、姉は必要が有って話さなくては行けませんが、私は第三者の視点で話せば良いことが多いので、話す力は同じぐらいだと思います。
キャッシーとのテレビ電話で引っ掛かる単語は姉妹同じなのですよ、同じようなステップで学習していますので。」
「君達ぐらいの力で難しい単語が出て来るという事は、難しい話もしてるということかな?」
「はい、日米の政治についてとか、キャッシーは来日した時、市民政党若葉を立ち上げた人達とも語り合いたいと話していました。」
「彼女は民主党共和党どっち?」
「中学の時は共和党支持だったそうですが市民政党若葉のことを知ってからは、周りの人ともテーマを変えてディスカッションやディベートをしてるそうです、自国の利益を追い求めるあまり、地球にダメージを与えて良いものかなど。
地球市民党の理念も研究中だそうです。」
「お爺さまの活動にも興味を持ち始めたのだね。」
「ええ、国のことを考えてると話す市民の多くは、自身の利益を基準としている小市民に過ぎず、社会全体のことを広くバランス良く考えてる和馬さんは素晴らしいと褒めてました、和馬さんの本を読んだ感想ですよ。」
「いや~、照れるね、万里ちゃんが勧めてくれたの?」
「はい、同じ本を読んでいることで対話がスムーズになります。」
「同じって、英語版?」
「私は両方読みましたよ、英語の授業中は英語の本を読んでいれば良いので。」
「万里ちゃんが先生の授業から学ぶ教科は有るの?」
「授業の組み立ては先生によって差が有ります、生徒の心情を把握出来てなかったり…、反面教師はそれなりにいますね。」
「今も教えたりしてるの?」
「はい、希望者のみに授業後十五分程度、その日の授業で気になったこととか。
その内容は学級担任が記録して教科担任に伝えてる筈なのですが、あまり授業に反映されてません。」
「万里ちゃんが授業を聞いてないからじゃないの?」
「本を読みながらでも聞いてますよ、本は視覚から授業は聴覚からじゃないですか。
授業には簡単な話しか出て来ませんから、普通に把握してます。」
「そういうものなのか。」
「はい。」
「う~ん、一つの仮説でしかないのだが、君の場合膨大なエネルギーを脳で消費してるから身長が伸びないというのは間違いだろうか。」
「その仮説は姉からも聞いています、無意識の内に脳を使ってるのだとか、私には普通のことなので良く分かりません。」
「もしかしてこうして話してる間も他事を考えていたりするのかな?」
「ええ、今日の晩御飯は何かな、とか。」
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智里-10 [シトワイヤン-21]

「智里、放送見たわ、イベントが上手く編集されてたよね。」
「うん、梨花もちょっぴり映ってた。」
「えっ、気付かなかった、というか気にしてなかった、帰ったらもう一回見ようかな。
メロディー言語って、音楽的には、良く分からない現代音楽よりマシかなというレベルだと思ってたけど、イベントを通してイメージが変わらなかった?」
「多言語による対話がメロディーよって成立…、でも微妙なところも有るでしょ?」
「普段耳にしないタイ語とかの響きが、意味を持つメロディーによって、新たな芸術分野を創造したとか、考えていたのだけど。」
「新たな、か、新しい遊びを生み出したとは実感したけど、まだこれから可能性を試して行く段階なのかな、プロが歌うと私達とは全然違うし。」
「大きい人の隣で一段とちっちゃく見えた万里ちゃんが、演奏では全然負けて無くて素敵だったわよね。」
「皆さんに褒めて頂いたわ。
演奏終了後、あの大きい人は万里をなかなか離さなくてね、英語で随分話してたのよ。」
「へー、何を話したのか聞いた?」
「ええ色々、それで次の名古屋公演に特別ゲストとして出演して欲しいって。」
「出るの?」
「ツアーの日程を調整して苗川まで来て下さったのよ、断れないでしょ。」
「見に行きたいけど、元々チケット高いし売り切れてるだろうし、それ以前に学校が有るからな…、万里ちゃんの生演奏が見られることを知らずに会場を訪れた人はどんな反応をするのだろう…。
もう、知名度はかなり上がってるけど、客層は違うよね?」
「万里のファンが更に増えてしまうのは間違いなさそうよ、名古屋公演はライブDVDを出す予定が有るそうで。」
「万里ちゃん目当てで買う人が少なからずいそうだわ。
万里ちゃん関連はアメリカでも売れ始めているのでしょ?」
「キャッシーがしっかり働いてくれましたからね。
メロディー言語関連のDVDも、思ってたより早く売り上げが伸び始めてると報告が入ったわ。
言語を覚えたいのか万里目当てなのかは分からないそうだけど。
でも、日本語バージョンを買って日本語の学習に役立てるという使われ方も有るみたい。
サイトでは基礎しか扱っていないからか、応用編紹介も売れ筋なのよ。」
「同じ言語を話す人同士なら応用編よね。
でも、万里ちゃんの離れ業に挑戦する人いるのかな。」
「台本が有っても無理よね、三人を相手にメロディーと歌詞、それと国際手話で対話、相手はホワイトボードを使った筆談二人と国際手話、万里には国際手話の存在を知って欲しいという思いが有ったみたいだけど。」
「録画されたのには台本が有ったの?」
「ええ、ただ、その前後には台本なしで結構対話してたのよ、三人を相手に。」
「う~ん、凡人はメロディーと歌詞を変えて情報量を増やすだけでも悩ましいのに。
でも安心したわ、万里ちゃんのDVDが売れてるという事は会社は安泰なんでしょ。」
「うん、キャッシーと手を組んだことが大きかったわ、著名なミュージシャンを動かしてくれたからね。
メロディー言語用に自作を登録して欲しいという依頼が増えてるの。
ということは、一瞬のブームで終わらない可能性を示唆してる訳でしょ。」
「そっか、ところで最近、智里は前以上に固い日本語を使ってない?」
「うん、万里の影響も有るけど、言葉について考えることが多くなって日本語を見直しているのよ。
日本語で話す時はメロディー言語化しにくい語句を使いたいとか。」
「英語で話す時も?」
「まだ余計な事を考える余裕、全然ないわ。」
「キャッシーとはテレビ電話で話したりしてるのでしょ?」
「困った事に、彼女は直ぐに私の英語力の低さを忘れてくれるのよ。
いつも近くに万里がいる訳じゃないって、梨花、キャッシーに言ってやってよ。」
「今度会った時にね。」
「ふふ、会う予定が全くないと思っているのね…。」
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智里-09 [シトワイヤン-21]

メロディー言語検索システムがベータ版から正式運用されるのに合わせ、苗川市の体育館でイベントが行われた。
全体を編集して放送するテレビ局はロスアンゼルスと日本の二社。
その二社が協力して撮影を行う。
イベント準備期間中、特別ゲストの存在は伏せられていたが、万里が出演するとあってチケットは直ぐに売り切れた。
入場資格はメロディー言語検定五級以上の者。
撮影目的なのでテレビに映っても構わない人という条件が付く。
オープニングは万里によるゲストの紹介。

『こんにちは♪ 鈴木万里です♪ みなさん今日はようこそおいで下さいました♪ 』

万里はメロディー言語の意味に合わせ日本語で歌う。

『初めに紹介させて頂くのは♪ タイから来て♪ 苗川で働いている♪ 私達の仲間です♪ 』

紹介されて出てきた女性はタイ語で素朴に歌う。
会場にタイ語の分かる人はいないが、全員、何を話しているのかメロディーで理解する。
自己紹介の後、彼女はタイの歌を一曲披露してくれた。
続いてはイタリア人男性、イタリア語でオペラ調に歌っての自己紹介をした後、美しいテノールでオペラから一曲。
こんな調子でアラビア語、スワヒリ語と続いた後に英語、スペシャルゲストの番となる。
万里は特に紹介するでなく、そのゲスト一番のヒット曲を英語で歌い始めた。
そこに登場したのは現在日本ツアー真っ最中の人気女性歌手。
途中から万里と一緒に歌い始める。
客席は興奮を抑え切れない。
洋楽ファンでなくとも知っている歌手の登場は、高校生でも購入し易い価格のチケット代から想像すら出来ないことなのだ。
ヒット曲に続きメロディー言語での対話となる。
日本語と英語での歌の掛け合いが始まるが、途中から万里のピアノにスキャットで応える大物女性歌手の歌声は鳥肌もの。
万里に会えて嬉しいという気持ちが観客にも充分伝わったところで、他のゲストを交えてとなる。
英語の歌にスワヒリ語の歌で応えても、歌が対話として成立している状態はとても奇妙な光景。
タイ語の素朴な歌とオペラ調が何ともミスマッチだったりするのだが当人たちは意に介していない。
その光景は、メロディー言語を理解している者にとって…、お遊びで始まった言語が本当に国境を越えた瞬間。
言語構築のメインスタッフの中には涙を浮かべる者もいる。
私たちの大いなる遊びはここに一つの完成を見たと言って良いと思う。
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智里-08 [シトワイヤン-21]

メロディー言語のシステム構築は和馬さん達が市民政党若葉を立ち上げる時にシステム構築した方々が引き受けて下さった。
そんな関係も有り、和馬さん達も私達の取り組みに気を掛けて下さっていて、本間さんの家で顔を合わせた時などは…。

「智里ちゃん、システムのベータ版は特に大きな問題なく運用されてる様だね。」
「はい、いきなり本格運用でも良かったぐらいです。」
「今回は新しいプログラムを多用してるそうだから、そうも行かないのだろう。
ある程度多言語との対応を進めてみて問題がなければ本格運用開始だと聞いてるが、収益性の方はどう?」
「すでに万里関連のものがサイト経由で沢山売れています。
キャッシーに紹介されたミュージシャン達が演奏の合間、楽器でおしゃべりしながら説明してくれたことも有りまして、そこからメロディー言語に興味を持ち、サイトにやって来て万里の動画を目に、そして思わずDVDを買ってしまう、という流れでしょうか。」
「ミュージシャンはキャッシーの知人?」
「彼女の両親は広い人脈を持ってるそうです。
お願いして、と言うより、万里たちが歌ってるメロディー言語のサンプル映像を見せたら、面白がる人が多かったと話していました。
メロディー言語用に自分の曲から修正して登録したいという話も幾つか出ていまして、語彙が豊富になりそうです。」
「語彙が増えると覚えるのが大変になりそうだな。」
「どんな言語でも同じですよ、言わば時代に逆行したのんびりした言語、ただ世界共通語と広め易い一面が有る、残念ながらメロディーを覚えることの苦手な人には向きませんが。」
「まあ、今は国内中心だから問題ないだろうが、これから共通語として使う機会は出来そうなの?」
「ふふ、ビッグチャンスがやって来るのです。」
「やって来る?」
「はい、日本ツアーの途中で苗川にも立ち寄って下さる歌手がいるそうで、今、調整をしています。」
「わざわざ苗川に?」
「はい、万里に会ってみたいそうで、苗川の自然溢れる風景と私達との映像も撮影するそうです。
歌による対話が上手く成立するかどうか楽しみですね。」
「ライブもして貰うの?」
「苗川には広い会場が有りませんので、正式にチケット販売する様なライブは難しいです。
それより、苗川ではゆっくりして頂いてリピーターになって頂きたいと。」
「そうだな、忙しい思いをさせるより苗川に対して良い印象持って帰って頂くことが大切だ…、が、こちらで取材させて頂くことは可能かな?」
「メロディー言語でのインタビューは出来ます?」
「うっ、そう来たか。」
「英語も分かるメロディー言語通訳者は用意出来ますが、料金は少々高くなりますよ。」
「はは、智里ちゃんも商売を考える様になったんだね。」
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智里-07 [シトワイヤン-21]

メロディーで会話するというお遊びを世界に広げる為、キャッシー達が立ち上げたのはMAIHIME Corporation。
キャッシーが株式会社舞姫の株式を買い、そのお金でMAIHIME Corporation株の四十九%を舞姫が手にした。
広げるのはお遊びでも私たちは真剣な事業展開を考えている。
柱になるのはネット上に立ち上がった、メロディー言語の紹介と学習を目的としたサイト。
まだベータ版だが日本とロスアンゼルスからのアクセス数が伸び始めている。

「ベータ版が始まってからメロディーを変更する提案が届き始めたのだけど万里はどう思う?」
「人によっては違う意味の言葉を強く連想させるメロディーなのでしょ。
変更した方が良いと多くの人が思うのなら今の内に変更すべきね、もう慣れてしまった人には申し訳ないけど、日本語にだって使われなくなった古い言葉が有るのだから。
使ってる人の少ない今なら影響は最低限に抑えられると思うわ。」
「そうね、もしブーイングが起きたら、万里、お願いね。」
「何とかなるでしょ、ねえ、英語と日本語以外はどう?」
「自分の母国語を話す人にも広げたいという人は少なからずいて、幾つかの言語はすでに十名以上の協力者が集まり、システム拡張を始めているの。
それぞれのメロディーがどんな言葉を表しているのか、文字と歌で少しずつ加えられて行くから全然知らない国の言葉を学習する教材として活用出来るかも。」
「そっか、ドイツ語とか学習してみようかしら。」
「基礎の基礎だけど、少しは役に立つかもね。」
「ねえ、お姉ちゃんは地球市民という目線で考えた時、言語による意思の疎通は上手く行ってると思う?」
「意思疎通以前に利害関係を重要視する人が多いかな。
普段は日本語で全く問題が無いのに、何か都合が悪くなるとニホンゴ、ワッカリッマセ~ンなんて人、普通にいるみたいよ。」
「そっか…、言葉が通じないフリか…、う~ん、通じなければ通訳にお願いだけど、もし悪意有る通訳がいたら怖いよね。
通訳が一方の利益を優先させるとか、人を簡単に騙せてしまいそうで。」
「それは、怖すぎるわ…。
勘違いの誤訳だって有りそうだけど、英語ならともかく全く知らない言語だったらどうにもならないものね。
メロディー言語が悪意を持って使われない事を祈るのみだわ。」
「悪意も無く、同じ言語を使ってる人同士でもすれ違うことが有るぐらいだからな。
同じ単語でも人によって受け止め方が違うことも有るよね。」
「そうね、方言と同様に地域差が有っておかしくないし、その言葉とどう接してきたかで…、差別用語を無意識に使う人も居る訳で。」
「色々考えると言葉って難しいのね、情報伝達になくてはならないものだけに。」
「気軽に使ってるけどね。」
「ねえ、言語情報を整理して、文章だけの情報を一次元と考えてみるのはどう。
二次元は電話、音声情報は言葉の抑揚など文字だけでは伝わらない情報を持つ。
三次元は顔を見ながら話す、音声情報に加え表情という情報が加わるし、場合によってはボディーランゲージが加味されるかな。
メロディー言語は顔を見ながらなら四次元と言えるかも。」
「歌詞による情報にメロディーからの情報、歌い方や表情からということね、伝達速度が遅いという欠点は有るけど。
メロディー言語をアピールする時に四次元言語とかでっち上げても良いかもね。」
「手話を加えたら五次元か…。」
「はは、万里はまだ複数人との同時対話をあきらめていないんだ。」
「複雑さが良い刺激になるのよ、脳みそにとって。」
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智里-06 [シトワイヤン-21]

「梨花、朗報よ!」
「どうしたの?」
「メロディー言語の中に著作権上問題が有るものが存在しないか調べて貰う過程でね、ちょっとしたきっかけから著作権者の中にメロディー言語の趣旨を理解して下さる方が現れたの。
誰もが知ってる様な曲の一部をメロディー言語として使うことに許可頂ければ、無料で、舞台とか公の場で披露させて頂いても問題なくなるのよ。
資料上には元歌の作詞作曲者と曲名を明記し、有名な曲のフレーズですがメロディー言語としてこの部分のみを利用する場合につきましては著作権者の許可を頂きました、として発表させて貰うことになるわね。」
「メロディー言語辞典が充実するのかな。」
「たぶんね、著作権者にとってもメリットが有るのよ、世代が違ったり国が違ったりして全く知らなかった人が、メロディー言語を通して知り興味を持つ可能性が有るでしょ。
日本で有名な曲の一番印象に残る部分が英語圏でも歌われ始めたら面白いし。」
「確かにそうね、私達としてはそのまま使いたかったメロディーを堂々と使える様になる訳で、でも英訳しにくいのはどうするの?」
「意味や使い方を明記してローマ字表記で良いのよ、SUSHIみたいにね。」
「公式な場ではその部分のみでも、友達同士の時はもっと歌っても良いのよね。」
「勿論。
メロディー言語は、英語ベースで構築しながら日本人しか知らない歌を発信という一面を持つ、大いなる歌遊びになるのよ。」
「その歌遊びを一番喜んでるのは合唱部の連中よね。
休み時間はずっと歌って話してる、そうそう、授業中、思わず歌って答えてしまった人がいたのよ。」
「はは、先生に怒られた?」
「先生は歌って注意、場が和んだわ。」
「そっか、歌の好きな先生がチェックしてるって聞いたことが有る。
ねえ、複数のメロディー語を同時に歌うとハーモニーになるというのは、まだ合唱部ぐらいしか使えてないけど聴いてみた?」
「ええ、メロディー言語の普及を目指して、ミニコンサートを開けないか検討してるそうよ。
練習してる曲の間に入れてとか。」
「まだ作られてない言葉は工夫して合唱曲としても歌える様に作ってみようとしてる人もいるから、完成したら是非合唱部で歌って欲しいわね。」
「智里、ロスアンゼルスの方はどうなの?」
「音楽好きが多いから、楽器での対話とかでも盛り上がってるそうよ。
キャッシー達が立ち上げたMAIHIME Corporationはサイトのベータ版スタートに向けて準備を進めてるところ、プロモーションビデオ作製の為、日本に送り込んでくれる歌手のトレーニングも順調なんだけど、その中にね、梨花は万里のDVDで凄く低音の素敵な男性、記憶にない?」
「あっ、空港職員役ね、向こうでは結構有名なんでしょ?」
「ええ、その彼も押さえてくれてね、万里と二人を事業展開の中心に。」
「万里ちゃん忙しくなり過ぎない?」
「大丈夫よ、色々刺激が欲しいみたいでね。
中学の授業は先生と交渉して眠くならない様にしてるそうだけど、仕事を理由に多少休むのは有りなの。」
「知的欲求が満たされてないの?」
「口には出さないけど多分ね。
だから、万里のミュージカル風英語教材第二弾とメロディー言語紹介ビデオ作製、和馬さんと番組出演とかでストレスを発散させるべきなの。」
「うわ~、そんなの私だったらストレスが溜まりそうだわ。
万里ちゃん自身は何て?」
「とても楽しみだって歌ってわ。」
「ふふ、言ってたじゃなく歌ってたなのね。」
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智里-05 [シトワイヤン-21]

「お姉ちゃん、手話をしながら歌ってみたビデオ、見てくれた?」
「見たけど、三人の人と会話するという想定なの?」
「まだ、三人の人に対して一方的に話すレベル、対話になるとメロディーで話してる人と歌詞での人でタイミングが違って来るでしょ、手話の人は独立してるから問題ないけど。」
「話の内容が単純だから何とか三つの情報を受け止められたけど、三人同時に違う内容をまともに伝えるなんて無理だし、出来たとして何かメリットが有るの?」
「メロディー言語を世間にアピールして行くには、色々なパフォーマンスを考えなきゃ。」
「遊びなんだから難しくしない方が良いのよ。」
「でもね、どんな分野でも高いレベルを目指し道を究めんとする人がいるでしょ。
メロディー言語の可能性を示して行けばそうゆう人が現れるだろうし、それに釣られて基本的な会話に触れる人が増えるのよ、そうなればキャッシー達と考えてる会社が儲かる事になるわ。
手話を入れてみたのは、ちょっとやりすぎかもだけどね。」
「三人の人に違う話を同時に伝える、というサンプルとしてなら問題ないわよ。」
「他に、ピアノと歌で三つの話を同時進行というのも考えたのだけど、ピアノと歌のメロディーを聴き分けて理解出来たとしても、音楽的には悲惨な結果になってしまうのよ、二つの言語メロディー同時進行は駄目みたい。」
「でしょうね。」
「歌とピアノの掛け合いで一人で対話するという少し寂しいバージョンは成立するのだけど…。」
「ピアノは伴奏として言語ではなく話す時の口調…、というかイメージを伝えるのに使えば良いんじゃない?」
「イメージか、それも一つ情報なのよね、対話の時は表情も情報の一部、それに代わる…。
単なる言語に捕らわれず、もう一つの情報としての伴奏は成立するかもね。」
「二台のピアノによる弾き語り風、即興対話的演奏なんて、パフォーマンスとしては面白いだろうな。
あえて歌詞とメロディーで意味を変えて、情報量が増えてるところをピアノがどうフォローして行くかなんてどう?」
「問題はメロディーがあくまでも言語だから、総合的に見て音楽的レベルが低くなるという事かな。」
「そこは、歌とピアノでカバーしてよね、万里。」
「えっ、私がやる前提?」
「色々なパフォーマンスを披露して行かないとダメなんでしょ?」
「お姉ちゃんと対話するの?」
「私には無理、まあ、高校生達に挑戦状を叩きつければ誰かが…、まあ、万里と一緒に遊べるのだから頑張る人が現れるでしょう。」

頑張る人は何人も現れた。
実験的に行った演奏会風の対話は、ぎこちなく始まったが、演奏者が慣れて来ると結構聴けるレベルに。
ただ、普通の弾き語りでさえ簡単ではないのに、即興で伴奏を付けながら歌で会話するというのは長く続く筈がない。
万里だけは平気なようで、相手から話を引き出したりしたのだが、長い対話は精神的にも無理という結論に至る。
パフォーマンスを披露するにしても、即興ではなく台本が必要なようだ。
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智里-04 [シトワイヤン-21]

メロディー言語は仲間内でささやかに利用を始めている。
元々、仲間内で良く使う言葉を選んで作り始めたからでも有るのだが『おはよう♪』みたいなのは何となく周りにも広まりつつ有って、おはようのメロディーで眠い~と歌う友人が増え始めた。
そこから、ちゃんと寝なよと突っ込むメロディーを増やすことに繋がる。

「智里、メロディー言語は面白いし、のんびり気分に浸りたい時に良いわね。」
「そうね、良く使ってるメロディーは、近くで聞いてる人達にも浸透し始めてるみたい。」
「普通に英語の短い歌を聞いてる内に、言葉が無くても意味が分かる様になるみたいだけど、幼児が言葉を覚えるのと同じなのかもね。」
「ねえ、愛を告白するメロディーを男子に理解させる方法ってないかな?」
「梨花はついに告白を決意したのね。」
「聡のことなんて大嫌い、メロディー言語的には大好きって歌ってみたいのよ。」
「微妙な乙女心か…。」
「だって、ずっと誰よりも仲の良い友達のままなんて、聡はね…。」
「まずは大好きってメロディーを浸透させる方法かな?」
「ねえ、万里ちゃんのことが大好きというメロディーと異性の…、あなたの事が大好きなんです、というのはニュアンスが違うよね、この手のメロディーは複数有って良いと思わない?」
「そうね、複数の案を用意してから聡に相談する形で、彼の脳にメロディーをインプットしてあげようか。
聡は何となく影響されてメロディー言語を使い始めてるから問題ないでしょう。」
「お~、持つべきものは友だ!」
「まずは皆で相談ね、それにしてもお遊びで始めたのに、人数増えたな。」
「合唱部を始め音楽系の部活中心に、他校でも静かに広まりつつ有るみたいね。」
「ええ、中学も含めてね。
そうだ、I LOVE YOUの基本日本語歌詞は『月が綺麗ですね』にしよう。」
「あっ、夏目漱石ね、良いかも。
でも、あえて長めのメロディーにして歌詞に自由性を持たせたいかな。」
「告白だもんね。」
「聡の欠点を沢山用意しとかなきゃいかんな。」
「おいおい。」
「欠点を知っていても好きだ、という方が安心して受け入れてられそうじゃない?」
「お~、恋する乙女は乙女なりに考えてるんだ。」
「ねえ、キャッシーにはメロディー言語のこと伝えて有るの?」
「ええ、向こうでも試してくれてるし、向こうのチームも作ってくれている、鼻歌検索アプリのメロディー言語版制作も考えてくれているのよ。
まあ、お遊びなんだけど。」
「ふふ、お遊びで終わらせる気なんてないでしょ?」
「まだ、始まってもいないわよ。」

実用性は無いし、学校ならともかく会社で歌っての会話は難しいだろう。
それでも、母国語の壁をメロディーで越えられたら楽しいと考えている。
世界共通の遊びとして各国に広げることが出来ないか、キャッシーとはその為のアイテムを提供する会社設立を目論んでいる。
勿論、地球市民が言語の壁を越えて歌ったり演奏したりして会話する世界を夢見ての事だ。
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