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進路-03 [シトワイヤン-23]

高校卒業以来久しぶりに梨花と。

「智里はそのまま市の仕事を手伝ってるの?」
「うん、肩書とかは変わったけどね。」
「う~ん、始めはなんだったっけ?」
「始めは市政市民会議の高校生代表よ、本間市長が選んで下さってね。
本間さんとは小学生の頃から、男の子に負けない勢いで『格好の良い子どもになろう』を推し進めていた事を切っ掛けに色々教えて下さってね。」
「ふふ、智里は男の子に負けてなかったな~、色々と、市長さんは小学生に対してどんなだったの?」
「頻繁にお会いした訳でも、長い時間話した訳でもないのだけど、話の内容が濃くてね、子どもながらに凄いと感じたわ。
それと、私達を子ども扱いしなかったの、万里なんてまだ二年生だったのよ。
でも、万里の力に気付いて下さって、真っ直ぐに受け答えして下さったわ。
その、一番尊敬出来る大人とは中学時代も交流が続いてね。
私が高校に進学するタイミングで市政市民会議が発足、すぐに苗川高校生部会発足というのは、中学生の頃に決まってた事なの。」
「市長の懐刀となっていったのね、給料は貰ってたの?」
「ええ、梨花、私の報酬は市の条例で定められてるって知ってた?」
「えっ、あっ、市の職員では無いから?」
「職員の給料も条例で定められているのだけどね、私の場合、スタートの時こそ、他の市政市民会議メンバーと一括りで決められていたのだけど、市長筆頭補佐の肩書を頂いてからは別扱いでね。」
「筆頭補佐だから報酬もかなりな額になったの?」
「高校生が授業後に活動してると考えたら少し多めだったかな。
でも補佐になって、本当に補佐してたから私の報酬に関する条例案は問題なく認められたのよ。
そして、高校卒業後、仕事の幅が広がり内容も濃くなったから報酬を上げて貰えてね、今日は私のおごりだから、梨花、太って良いわよ。」
「そうか、よし、明日からダイエットしよう。
でもさ、智里は学歴的には高卒になるのでしょ、金額的にはどうなの?」
「高卒でも、市の職員に指示を出したりしてるのよ、そういった事に見合う金額でないと、そうね報酬によって人を判断する人もいる。
私が大卒の初任給以上に頂いてる背景には色々な意味が有るのよ。」
「市の職員という選択肢はなかったの?」
「本間さんは私を市の職員として拘束したくないとおっしゃっていてね、正規の職員となると制約が多くて、私が自分の力を発揮出来なるそうなの。」
「ずっと、その立場で働いて行くことに?」
「先の事は分からないわ、今は本間さんの下で市政全般を学ばさせて頂きながら、市の職員とは別の角度から作業に当たったりしてるのだけど、本間さんからは他の自治体で働くことも視野に入れる様に言われていてね。」
「そっか、大学卒業後は苗川市の職員というのも考えていたけど、智里の話は参考になりそうに無いって分かったわ、レベルが違い過ぎて。」
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進路-02 [シトワイヤン-23]

本間塾はその体制を整え、私が高校を卒業する頃には、市民政党若葉から国政や地方行政に関わって行こうという人達が登録を始めた。
始めの内は本間さんが面接をし入塾の判断をしていたが、追い付かなくなり塾生が分担して面接を行う様になる。
この面接は万里の発案で、本人よりその家族や職場の同僚に重きを置いた。
中身の格好良さは本人には分からない部分が多い。
本間塾の塾生となるには、周りの人達が本当に尊敬し推薦したいと思える人で有ることを要求した。
現行の選挙制度は、人間的に問題のある人でも当選する可能性が有る。
本間塾の塾生からは、そんな人を政治の場に送り出したくはない。
そんな本間塾、スタートから一年半後には舞姫騎士団の結成を切っ掛けにアメリカからの塾生が加わる。

「お姉ちゃん、アメリカから本間塾へ参加する人達は、市民政党若葉と地球市民党、国家規模と世界規模の違いから生じている微妙な誤差をどう捉えているのかしら。」
「どこをどう妥協しあって行くかなのよね。
価値観の相違を当然のことと考え、その上で協力して行くのであれば互いに妥協点を探るしかないでしょ。
自分の意見を押し通すだけの人、母国の利益にしか目が行かない人は地球市民党の党員に相応しくないわ、私利私欲の人は問題外だけど。」
「その辺りを第三者の力を借りてでも納得して理解して貰えるかなのね。
まだ、地球市民党の理念を受け入れてる人達だからマシな人達なのだろうけど、塾生筆頭として調整役をして行くの?」
「出来る範囲でね、まあ、高校時代より自由な時間が多いから動き易いわよ、高校卒業して数か月、すごく充実してるのは万里が本間塾を提案してくれたからだね。」
「お姉ちゃんが自分の力を発揮出来てるのは本間さんや和馬さん達のお蔭でしょ。
本間塾塾生筆頭の肩書は大人の塾生が増える毎にその重みを増していると思うな、有名大学を卒業された方々の代表としてね。
大学からの講演要請も不思議じゃないもの、アメリカからも呼ばれているのでしょ?」
「あれはキャッシーの仕業よ、ついでに遊びと仕事をして行けば良いなんて言ってるけど、どれがメインなのか分かったものじゃないわ。」
「私も中学卒業したら塾生だけどどうなるのかしら。」
「万里の場合、高校の内容は済ませて有るのだから飛び級で大学という選択肢も有るのよね。」
「でも大学で何を研究するのか変に縛る必要はないし、多分どこへ行っても好奇な目で見られて、日本なら兎も角、アメリカだとまず小学生扱いされそうでしょ。
大学でなくても多くを学び経験出来る場が有るとお姉ちゃんが示してくれたから、それを追求したいと思ってる。
自発的な学習意欲と能力が有れば、高校も大学も必要としない選択肢が有る事を世の人に示したいかな。」
「でも、万里は特別な人だからと、その本当の意味を理解出来ない人が多そうだけど。」
「高卒と中卒の姉妹が活躍したら、学歴の為だけの進学とか見直してくれないかしら。」
「どうかしらね、親の価値観が有って…、でも、三流大学卒業の意味が薄れて来ていると聞いてるわ。
その辺りの理解が広まって、無駄な進学塾に家計を圧迫されてる人が減ると良いのだけど。」
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進路-01 [シトワイヤン-23]

私が大学進学という選択肢を選ばなかったのは、本間市長の手伝いをしている中で、受験の無駄を感じたからだ。
高校は真面目に通い万里に恥ずかしくない成績を収めていたのだが、自分のやりたい事は明白、市政の手伝いをしながら万里を守っていくこと。
そのどちらにも、大学でなければ学べない要素を感じなかった。
大学入試の為に強要される学習内容も同様だ。
それでも何の迷いも無かったわけでなく…。

「ねえ、本間さん、お姉ちゃん進学関係で迷ってるみたいなんだけど。」
「智里、どこの大学に良い男が多そうか調べさせようか?」
「そ、そういう問題ではないです、大学そのものの意味を考えていまして。」
「お姉ちゃんは、すでに大卒職員より有能だからね。」
「そんなこと無いわよ。」
「う~ん、大学で何を学ぶか、かな。」
「お姉ちゃんは、今まで本間さんの元で色々学び経験させて頂いて来たのよね。」
「そうよ。」
「なら、このまま本間塾の塾生ということで良いじゃない、私も中学卒業したら、ねえ、本間さん、塾生にして下さるでしょ。」
「本間塾?」
「吉田松陰の松下村塾は学校関係の法律に縛られない学びの場だったのですよね。」
「だろうな。」
「実際、本間さんは幅広い知識と見識で多くの人を導いて来られました、塾と名乗っていなかっただけで本間塾の塾生に値する人は多いのでは有りませんか?」
「そうですよね、市長から学んでいるのは私だけでは無いですし、共に学ぶ松下村塾の理念に通じる所が有ります。」
「そうだな、私なりに、人を育て共に成長すると考えて来た。」
「だから、お姉ちゃんは色々面倒な大学へ行くより本間塾の塾生という立場で、和馬さんに話せば面白がって、お姉ちゃんに必要な先生とか紹介して下さると思うわよ、勿論、取材対象になるでしょうけど。」
「う~ん、必要と有れば大卒資格を取る道も作れるが…。」
「そんな資格より本間塾塾生の肩書を価値の高いものにすれば良いと思うな、ね、お姉ちゃん。」
「そうね、本間塾の塾生は凄いと世間の人に認めさせれば良いのね、本間市長、お願いします。」

こんなやりとりが有って本間塾はスタートし、市長筆頭補佐の私は塾生筆頭になった。
本間さんは筆頭という言葉が好きなようだ
和馬さんは万里の予想通り面白がり、番組で紹介すると共に愛華さん清香さんと揃って塾生に、そんな話が広がると、本間さんのかつての部下を中心に塾生が集まり始め、その中から事務担当が生まれ、組織が固まって行く。
塾生には本間さんの認めた人しかなれないが、すぐに二十人を越したのは本間さんの人望の厚さだと思う。
吉田松陰の時代と違い今はネットで情報交換できる、大学と違って単位の制約もなく、意見を交わし学び研究する場は至って簡単に出来上がった。
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来日-10 [シトワイヤン-22]

舞姫騎士団に当初はとまどいも有った万里だが、少しずつ慣れ、彼女なりのルール、甘えて良い事といけない事などを決め、騎士団に指示を出す様になった。
私達は騎士団の結成と共に、これまで必要に応じで設立して来た幾つかの会社を統廃合し整理。
株式会社舞姫騎士団を立ち上げ、騎士団関連の費用はそこから支出する形に。
清香とキャッシーは資産の多さから貴族と位置付ける。
清香は清香村の領主として、キャッシーは新しい町の領主として、設定上は、姫から領地を預かり領民の為に経済活動を行っていくとしてある。
その過程で万里の資産管理会社を立ち上げたところ、彼女が株式運用をしていることが判明した、資産として持っている株式とは別でだ。

「騎士団に色々調べさせているのは株式運用の為だったのかな?」
「はい、遊び半分で始めましたがもう少し真面目に取り組もうかと。」
「投資額を増やしたとか?」
「増やしたというか増えたという感じです。
今まで増えた資金はそのまま次の投資に回して来ましたので。」
「へ~、どれぐらい増えたの?」
「五百万で始めて、一億を超えました。」
「五百万を一億にしたってこと?」
「そういうことになります。」
「簡単に?」
「上がりそうな銘柄を買い適当な所で売る、を繰り返しただけですから簡単と言えば簡単です。
でも、騎士団に手伝って貰うまでは自分で調べていましたので、それなりに時間を掛けています。」
「予想を外したりとか無かったの?」
「有りますよ、少し上がると思って多めに買ったら沢山上がったとか、怪しいからすぐに売りました。」
「で、その後、下がったとか?」
「下がりますよ、そんなに上がる筈が無いというぐらい上がりましたので。」
「そんな調子なのか…、今後も稼げそうだね。」
「どうでしょう、一応運用益で何人か養えるぐらいに稼いで行きたいとは思っています。」
「家来の給料はDVDの売り上げとかで充分賄って行けるから心配しなくて良いんだよ。」
「沢山稼いで沢山使う、私には使い道がそんなに有りませんので、自力で充分稼げない人の存在を意識していましす。
DVDやCDが売れれば今後も継続的にお金が入って来るそうなので、どこにお金を使って行くか検討中です。」
「君が三時間ぐらい舞ったのを編集して出したDVDやCDの売り上げが凄いからな。
アメリカで売れるということはそこから世界へ広がる、桁が違うということを実感させて貰ったよ。
税金を沢山納めても、どう使って行くか検討するに値する収入になると思うが、自分の為にも使ってくれな。」
「はい、取り敢えず清香村の別荘を巨大化し迷宮化することと、キャッシーが建設する町に、私の小さなお城を観光名所になるようなデザインで町の真ん中に建てる様に指示を出しました。」
「あっ、清香がセキュリティ強化と話してたのはその関係も有るのかな、見物客が増えてるのだろ。」
「地下駐車場から、間違えると怖い思いをする枝分かれした道、それが何本も有る秘密の通路を作ってとか、担当は遊び心を膨らませていましたね。
苗川に仕事を増やし、働く人が増えたら良いと考えてのことなのですが。」
「まずは二か所の拠点に雇用の場を創設ということかな。」
「はい、ささやかですが。」
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来日-09 [シトワイヤン-22]

万里をひどく疲れさせてしまったという反省を踏まえ、彼女をサポートする体制を強化することに智里が強く同意したのは今後の展開のことも有った。
キャッシーが作ろうとしている新しい町と万里は、大いなる実験のシンボル。
万里は…、万里は自らがシンボルとなることに戸惑っていたが、私達の目指していることは誰よりも理解している。
おそらく悩ませてしまったのだろうが受け入れてくれた。
サポートチームの結成に関しては、多くの利益をもたらしてくれた事に対する感謝の印であり、これから活動をステップアップさせて行く過程でのトラブルを事前に防いで行くためだと話し理解して貰った。
チームは日米連合。
メンバーになった者達は、それぞれ、下僕、家来、子分など勝手に名乗り始めている。
下準備を済ませたところで、アメリカのメンバーが来日、顔合わせとなった。
チーム名は舞姫騎士団。
結団式、主な役割とともに紹介されたメンバー達は全員、万里に忠誠を誓う。
それを静かな笑みと共に受ける万里は、愛華の用意した衣装によって、その美しさを更に際立たせ、溢れ出るオーラは家来達が跪く姿を自然なものに見せている。
人は平等ではない、跪く者と跪かれる者が存在し、それは人間社会に於いて自然なことなのかも知れないと感じさせる、誰も跪くことを強要していないのだ。
そして万里が語り始める。

『私達が取り組む多いなる実験について、ここでお話しする必要はないでしょう。
私を主君とされる方が見えるので有れば、私は主としてすべき事をしていくつもりです。
皆さんのお力が有れば、大いなる実験は大きな成果を上げられると信じています。』

万里は騎士団に守られる姫となったが、これからはネット上に展開して行くバーチャル王国の姫という設定も用意して有る。
王国の都はこれからリアルに建設される町、舞姫に忠誠を誓った作業員、万里の大ファンが測量を始めたそうだ。
リアルとバーチャルで、私達が理想と思える市民像を模索して行く。
多民族国家を中心に展開するという事で、大学一年生の頃にゲームとして行っていたバーチャル王国とは、全く違うものになるだろう。
多様な価値観から、我々にとって民度が高いと思える人の社会集団を生み出すことが出来るかどうか。
そんな実験は、万里という存在によって効率良く進むと考えてるが、本間市長は、万里の様な存在がいなければ不可能だと言う。
そうかも知れない、万里の様な人間離れした不思議な魅力に溢れる人は、私の知る限り存在しない。
彼女が世界にどんな影響を与えて行くのか楽しみであり、そのサポートの一人として身が引き締まる思いを噛みしめながら、舞姫親衛隊結団式を終えた。
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来日-08 [シトワイヤン-22]

万里に関して研究者たちが出した結論は、高い能力以外に特別な所は何も無いということ。
日本人研究者の、超絶可愛い存在が人の心を癒す、という意見にアメリカから来た研究者も同意するしかないそうだ。
アイドル達もファンにとっては癒しの存在なのだろうから否定出来ない。
ただ、万里が普通のアイドルと大きく違うのことは研究者達も感じていて、今後は映像を見る側の人達を対象に研究を続けて行く事になった。
その結論は万里を安心させたが、本間さんは、たかが人間の研究者に万里のことが分かる訳が無いと言い切る。
それぐらい不思議な存在なのだ。
この件に関しては愛華に怒られた。

「万里ちゃんの負担になることはもう控えて下さいね。」
「ああ、言われるまでもなく反省してるよ。
変に疲れさせる事で、彼女のオーラが弱まってしまったら本末転倒だからな。」
「万里ちゃんは研究対象とかでなく、神聖な存在として守って行きたいのよ。」
「そう思ってる人が増えてるみたいだが、怪しげな宗教団体からも打診があったのだろ?」
「神の子だからうちで預かる的な感じだったと聞いたわ、色々利用するつもりなのでしょうね。
まあ、私達も稼がせて頂いてるから、人の事は言えないのだけど。」
「DVDを通して奇跡的に多くの人を癒していると思うのだが、そんな存在を宗教関係者達はどう位置付けていくのだろうな。」
「キャッシーとしては万里を信仰の対象にしたい、いえ、すでに彼女自身が万里を人の上の存在として崇めている節があるわ、ただ、宗教の枠に入らない神聖な存在かしら。」
「う~ん、新たな町の市民は万里ちゃんに忠誠を誓う、という形を選んだのは、変に宗教的でなく良いアイデアかもな。
市民がこの先どう判断して行くのかは分からないが、スタート時点では可愛らしい領主さまといったところで。」
「万里ちゃんを中心とした宗教が誕生する可能性はどう?」
「宗教の始まりがどうだったのかは憶測するしかないが、今の宗教には本筋から外れているみたいなのも有るだろ、それと同列には置きたくないと思うな、宗教の存在意義は認めるが。」
「そうよね、でも、イスラム教に疑問を感じてキリスト教に改宗するという話が新聞に有ったわ、無宗教という選択肢は無いのかしら。」
「信仰心の薄い日本人には理解しがたいものが有るのかもな。
何にしても、万里ちゃんの今後には、我々も気を配る必要がありそうだ、大切な人だからね。
指導者の思惑や利害に左右されている宗教と一線を画しつつ、宗教が行って来た教育的な一面を推し進めることは彼女なら出来ると思うんだ。
市民教育の一環として、万里ちゃん中心に『格好の良い大人になろう』を世界的に推進出来たら面白いだろ。」
「そうね、優しい指導者になって欲しいわ、これから注目度が更に上がる事を考えると、彼女を色々な方面から守る体制を強化する必要が有るわね。」
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来日-07 [シトワイヤン-22]

キャッシーは帰国後、スタッフを日本に送り込んで来た。
まず、アメリカで放送するテレビ番組を日本で制作する方向で動き始め、その下準備としてディレクターを。
彼には自分が関わっている放送局のスタッフを紹介し協力関係を築いて貰う事に。
そして日本の放送局には、アメリカ人が見た日本、彼の番組を日本向けに編集し直して放送という提案をさせて貰った。
キャッシーとしては、ほとんど知られていない地方都市苗川からアメリカに向けて、万里と苗川を発信して行きたいとのことだ。
前後して訪日したのは清香のところで製造しているユニットハウスをアメリカで製造販売する責任者。
清香も出資し、新たな会社を設立する方向で話が進み始めている。
子どもが生まれたら一部屋増やせば良いという感覚で売り出す。
新しい町の建設が決定したら確実に需要が有る。
万里に会いに来日した精神医学関係の学者は私が間に入り、日本の研究者に日程を合わせて貰った。
万里の負担を軽くする為であり、万里が研究対象として拘束される時間を減らした。
それでも…。

「万里ちゃん、お疲れ様。」
「和馬さん、研究って良く分かりませんね、舞だけでなくひたすら撮影されましたが。」
「まあ、彼等なりに頑張っているのだよ。」
「頑張って何を?」
「君と背格好の似たアクトレスに、Citoyenから君が着てるのとそっくりな衣装を手に入れて舞を、バックの音は君のDVD音源をそのまま使ってね。
私も見させて貰ったが、なかなかの仕上がりだったよ。
でも、見た人の反応は全く違っていてね、取り敢えず音は、人を癒す君のDVDであまり大きな存在でないことが分かった。」
「比較研究ということですか?」
「ああ、これで注目すべきは万里ちゃんだと特定出来たわけだ。」
「まだ良く分からないのですが…。」
「君の舞い姿は人の心に良い影響を与えていることは間違いない。
だからキャッシーは舞姫に忠誠を誓う人で町を構成したら、苗川の様に出来るのではないかと考えているのだよ。」
「そう言われても、和馬さんはどう思われます?」
「良いと思う、そこから広がって行けば治安の良い町が誕生するだろう。
苗川の周辺は、元々犯罪の多い所では無いから目立っていないが、犯罪行為が減っているみたいなんだ。
内面の恰好良い人が増えてるだけでなく、万里ちゃんのファンが増えてるからだと思うね。」
「そうですか…。」
「キャッシーが君に夢中なのも君から何かを感じたからだろう、そしてその可能性を信じている。
アメリカに出来る新しい町のシンボルが日本の美少女なら、それだけでも注目を集めるだろうし。」
「でも、そんなに渡米出来ませんよ。」
「大丈夫さ、国民が国王の姿を直接見る機会なんてそんなに無いだろ。
日本で万里ちゃんを中心とした番組を制作しアメリカで流す。
キャッシーはそれを市民に見せることで市民教育しようとしてるんじゃないかな。」
「そういった話は聞かせて貰いましたが…。」
「何か問題でも?」
「私のことは女王様とお呼び、って言えば良いのでしょうか?」
「領主様ぐらいで良い気もするが、神の遣わした舞姫から造語という案が出てるね、具体的なのはまだだけど。
まあ、舞姫が向こうでも定着しつつ有るそうだから、その辺りで落ち着くんじゃないのか。」
「昔々有る所に舞を舞うしか能のない姫がおりました…。」
「あっ、お疲れかな?」
「はい、少し…。」
「食事の時間まで横になってて良いよ。」
「はい。」

万里は研究対象にされ、色々な要求に応え、随分疲れていた様だ、話に何時もの歯切れが無く。
万里の謎を知ろうというのは間違いだったのだろうか。
超美少女だが普通の女の子。
今日の結果を踏まえ、今後は制限を考えるべきかも知れない。
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来日-06 [シトワイヤン-22]

キャッシーは一週間ほどの滞在中、観光より仕事に多くの時間を費やしたという。
万里の制作中DVDに関しては英語版に対して助言、万里のプロモーションが仕事のメイン。
だが、彼女はそれだけに留まらなかった様で。
彼女の帰国後。

「キャッシーは才能溢れる人だね。」
「はい、共に時間を過ごして改めて思いました、さすが会長さんの一押しです。
後継者と考えておられるのかも知れません。
滞在中もあちこちと連絡を取り合って事業展開の可能性を探っていました。」
「差し障りなさそうなら教えて欲しいね。」
「一つはユニットハウス、ユニットルームです、清香さんのスタッフとサンプルを船便で送る話をしていました。
行けそうなら現地生産になります。
新しい町を作る構想も出ましたのでそこで実際に建てて行くことになるのかも知れません。」
「新しい町?」
「はい、苗川みたいな改造ではなく、何もない所に道路と作業員の宿泊施設を作るところから始めてみたいそうで、会長さんと電話で交渉していました。
どんな町にするか話し合うのは楽しかったですよ。」
「どんな町に?」
「苗川の様な民度の高い町を目指したいけど、低所得者層を受け入れると犯罪者の問題が、麻薬や銃のない町にしたいけど難しいのです。」
「治安が良いと言われている日本でさえ、薬物を容易に手にしてる人がいるのだからな。」
「そんな話をしてる時に、万里の舞に癒し効果が有るのではと。
そこから話が盛り上がり、彼女は自分のスタッフに、精神科の病院にDVDをサンプルとして送って医者の見解を聞く様に指示したのです。」
「癒しは感じていたが、そういう使い方は考えてなかったな。」
「私もです、それで私も病院に問い合わせてみました、この地の病院なら万里の舞を知らない筈は有りませんから。」
「結果は?」
「科学的な根拠は無いが精神安定効果が見受けられるそうです。
その病院では待合室で流し始めてから、DVDについて聞かれる事が多いそうで万里の舞に癒されてる人は多いのではないかと。
キャッシーの指示を受けたスタッフも二日後には返事を寄こし、サンプルを見た医者達にDVDが百本売れたそうで、州内の医療機関を中心に販売促進キャンペーンを始めるそうです。」
「日本でも見直すべきだな、医学部で研究させよう、下手な薬より効果が有りそうだ。」
「その流れを受けて、キャッシーと考えている町の名はMAIHIMEに、アメリカで唯一正式な漢字表記の有る町にしようと。
万里は、女王か女神、他の名称を新たに作っても良いけど、万里に忠誠を誓わないと市民になれないシステムにします。」
「法的には分からないが、アメリカ人って王様とかに憧れがあるから面白いかもな。」
「町の至る所に領主である万里の写真を飾り、映像を流して犯罪抑止に繋がるかどうか。
苗川に近づける為の市民教育をし、民度を上げられるか、実験的な街づくりとなります。」
「新しい町は、もう確定なの?」
「人の為になる事業だからお爺さまも後押しして下さるだろうと。」
「う~ん、あの会長がその気になったら、直ぐに大きな町が出来てしまいそうだな。」
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来日-05 [シトワイヤン-22]

夕方からの歓迎会では沢山話をした、ただ、キャッシーはお疲れの様で早めに智里と共にゲストルームへ。
残った我々は、言語を日本語に変え少しほっとした感じで。

「ユニットルームを組み合わせたと聞いていて、キャッシーは、ちっちゃい万里ちゃんの小さなお家かと思ってたのね。」
「愛華さん、サイズはお姉ちゃんに合わせてあるから、巨人でも大丈夫なのですよ。」
「バスケットボール選手でも大丈夫なんだろ、清香、アメリカ人とかも意識していたのか?」
「ええ、広い土地に九十%完成した部屋を並べておいて、気に入ったのをお持ち帰りというのはアメリカ向きだと思いません?」
「キャッシーもビジネスの匂いを感じてたみたいだったな。」
「ふふ、この館にお招きするということは、そういう事なのですよ、和馬さん、女子中学生の部屋を見て行きますか?」
「はは、是非ともお願いしたいね、話だけでは広さが掴みにくい。」
「廊下や階段はパブリックスペースと同じ不思議な装飾になっていますが、部屋の中は最新の設備、歌えば家電品が反応しますよ。」
「あれは、若干抵抗を感じる、私は黙ってスイッチを入れる派なんだ。
なあ、万里ちゃん、雑談っぽく話していたけど、今日は中身が濃かったよね。」
「はい、限られた時間ですので雑談を雑にしない様に、和馬さんも話題を私達任せにして下さっていましたのでキャッシーも聞きたい事が聞けたと思います。」
「はは、中身の無い話をだらだら続ける連中に聞かせてやりたいね。」
「濃いと言っても、愛華さん達はビジネスの第一段階という感じだったのでは有りませんか?
Citoyenブランド、ユニットルームの話などは。」
「ええ、地球市民党の活動資金を考えていてね。
ただ、Citoyenブランドは、そのままではサイズも人の好みも違ってアメリカでは通用しないでしょ。
ユニットルームも実物を見せれば商機が有ると思うのだけど、そこまでの道のりは遠いわ。
私達、キャッシーが触れなかったら今日は話さないつもりだったのよ、万里ちゃん、今日の話題は事前に用意していたの?」
「はい、キャッシーは和馬さんと話すテーマを考えてましたし、Citoyenブランド立ち上げの経緯や清香さんの会社に興味が有ると聞いていましたので。」
「万里ちゃんはアメリカでの事業展開、どう思う?」
「ユニットルームは耐震性を強調して行けば受け入れて貰えそうな気がします、Citoyenはデザイナー次第ですね。」
「そんなところかしら、何にしても万里ちゃんの知名度に頼って行く事になるのだけど。」
「謎の美少女として注目を集めることに成功しているからな、キャッシーの話では私が思っていた以上みたいだ、謎の美少女としてはどうだい?」
「全然実感が湧きませんが、秋に学校休んでアメリカ旅行の話が出てて楽しみです。」
「学校へ行きたくないのか?」
「そういう訳では有りませんが、中学では体験出来ない事が経験出来ると思いませんか?」
「そうだな、どちらが万里ちゃんにとってプラスになるかは明白だし、沢山稼いで来るのだろ?」
「ふふ、どうでしょうか。」
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来日-04 [シトワイヤン-22]

キャッシーは市民祭期間の中頃に来日した。
来日中は智里が主に案内。
智里にとって、市の仕事から離れ気分転換になってくれたら良いと思うが、相手は大富豪の孫、彼女達の関係は良く分からない。
キャッシーの宿泊は舞姫の館、万里の別荘として建て始めたものだ。
この建物は少し変わった建てられ方をしている。
まず完成したのは現在三階に位置する万里の部屋、バス、トイレ付で家電など最新設備の整ったユニット、完成以来万里は実家と使い分けている。
この部屋が二階になったのは、清香村の集会所的建物が完成してから。
その上に乗せられた形だ。
三階まで上げられたのは、今の二階部分、ゲストルームユニットを組み込んでから。
この建設作業は村民の有志が趣味として行っている。
テーマは文字通り成長する家。
成長するだけでなく外観も変化している。
外観のメインテーマは聖なる村の守り人の棲家。
何とか神聖な雰囲気を醸し出そうと工夫。
村人から大きな改装の提案があると万里が検討、了承すれば、彼女のいない間に工事というサイクルを何度も繰り返して来た。
冬場は雪が屋根に積もらない様、急角度の部材が取り付けられ、真夏の今は沢から引いた水が屋根を冷やしている。
万里の別荘がこうなったのは、万里が住める環境をいち早く用意したいという村人の思いから。
集会所を併設したのは、万里が自分だけの家というのでは気が引けるだろうということと、ある程度大きな家にしたかったからだ。
家を増築したり外観を変えるのは、趣味としてならとても楽しいことだそうで多くの村人が関わっているという。
今日はキャッシー達が市内を案内されている間、歓迎会の準備に愛華と清香と。
ただ、ついて来たものの私は邪魔になりそうで、それを察知した万里が相手をしてくれている。

「万里ちゃん、館の住み心地はどう?」
「快適ですよ。」
「話は清香から聞いていたけど、不思議な感じだね。」
「はい、外観とパブリックスペースはアニメ作品を参考にしているだけあります。
でも、不思議さを一番感じているのは多分私です。
大きめの改装の時は事前に知らせて下さるのですが、小さな改修がしょっちゅう有りまして、帰宅する度にどこかが変わっているのですよ。」
「まだ成長するのかな?」
「今も成長しています、隣に地下室を作っていまして、食料の備蓄やお酒などの保管用です。
上手く出来たら防音完備のスタジオを、やはり地下に作る話も、ゲストルームの需要が多いので二階を広げる案も出ています。」
「この館はどこまで大きくするとか有るの?」
「敷地にはかなりの余裕が有るそうで、ガウディのサグラダ・ファミリアを目標に、という冗談を真面目な顔して話す人がいるのですよ。」
「はは、壮大だね。」
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