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市民-05 [シトワイヤン-12]

「今回の事業で、清香お嬢さまはお父上に沢山おねだりしたのですか?」
「実質的には、有能な社員を一人、私の会社の社長に頂いたぐらいです。」
「その一人の力が大きいのですね。」
「ええ、あちこちからバランス良く社員を引き抜いてチームを作って下さいました。
自分達も苗川でゆとり有る生活を送るのが目標だそうです。」
「田舎暮らしに馴染んで貰えれば良いが…。」
「元々野外活動が好きな人達なので心配はいらないと思います。」
「それなら、猟友会に誘えるのかな。」
「興味の有る人はいます、森のバランスを考えていますので。
別荘エリアは完全に柵で囲い人の他、鹿や猪の侵入は許しませんが、柵の中で住人が野生動物を目にすることは出来るでしょうか?」
「リスとか小動物なら多分、餌付けには賛否が有るのですが別荘村でリスを対象になら問題ないでしょう。
厄介なのは猿ですね、柵なんて関係なく侵入して来ますよ。」
「猿との共存は難しいのですか?」
「餌付けして…、でも、群れが大きくなると、別荘村が猿村になりかねません。
追い払いながら間引くのが理想ですので、是非、社員の方には何人か猟友会に入って欲しいです。
うちの支部はフレンドリーなんですよ、初心者への指導は丁寧にがモットーで。」
「分かりました、元からの住人と新しい住人との接点にもなりますね。」
「清香、社員達は落ち着いたら祭りにも参加してくれるのだろ、一度皆さんに紹介しておいた方が良くないか?」
「そうですね、店長、この店を社員に教えても宜しいですか?」
「勿論構いません、地元民しか来ない店は有る意味敷居が高かったかも知れませんね。」
「電話してみます。」
清香が席を外す。

「和馬代表、苗川大改造の規模を考えたら市の役割はそれ程大きくないのだね。」
「ええ、市は秩序を守る立場、再開発のメインは民間です、でも苗川では一般市民の協力がとても大きくて驚いています。」
「事業推進派が強かったからな、逆だったら話は全く進まなかったろう。
本間市長とは随分前から市民の役割について語り合って来たのだが、市長は大都市に住む人と田舎に住む人では自分が生活する土地に対しての関わりあい方が大きく違うと話していたよ。」
「はい、都会では住まいを基本とした人間関係が薄れていて、税金を納め行政サービスを受けるぐらいの感覚になっています、なあ、愛華は自分の住むエリアの行政に興味が無かったのだろ。」
「ええ、何度か引っ越したことも有って、支部長、私と地域社会を繋げるものは何もないのですよ。」
「近くの店へ行く事は有るのだろ?」
「それもないです、大学と仕事の関係が有りまして。」
「そうか、人間関係が地域に根付いてなく…、運命を共にした、かつての村落共同体とは真逆なのか。
これから転入者が増えると、感覚の違いから人間関係の問題が発生しそうだな。」
「ほとんどの人が市民政党若葉の党員です、良い形でバランスの取れた人間関係を築いて行きたいですね、支部長。」
「はは、トラブル解決は党支部で引き受けるしかないのだな。」
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