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或る日の-10 [シトワイヤン-15]

或る日の夜、愛華の原稿に目を通した後。

「ふふ、苗川のことが益々好きになってしまう本です。」
「うん、本間さんが苗川の素朴で素敵な人達と酒を酌み交わすところから始まって、さすが愛華だね。
これなら社会福祉事業の資金が稼げそうだよ。」
「後は校閲にお任せなんだけど、清香の方はどうなの、本を出す計画が有ると聞いたから、今回の本では触れない様にしたのだけど。」
「まだ、取り組み始めて間もないことも多く、成果として本にまとめるには時間が掛かります。
ただ、愛華の本が売れるでしょうから、それに便乗して一冊、進行中の話として出そうと。
会社の立ち上げから村の成り立ち、単なる建物の集まりではなく、人の集合体としての村が機能して行く過程は面白い読み物に出来そうで準備に取り掛かっています。」
「村長は乾社長では無いのだよな。」
「はい、会社と村は二重構造になっていて、乾社長は村にあまり口を出さない方針、社長の指示で動くので有れば勤務になってしまいますので。
村の運営は、乾社長に見守られながら、田舎暮らしを選んだ社員やその家族が自主的に取り組んでいまして、時に酒を酌み交わしながら会社の部署を越えた共同体の構築を目指しています。」
「清香がそこまで把握してるということは閉鎖的な村では無いのね。」
「ええ、あまりにも独特な村組織になりそうなので、もう少しまとまってから党でも発表するとか。
私としては、株主配当の一部を村の活動に還元させて頂く代わりに情報を流して頂く約束をして貰いました。」
「党の考える社会と多少形は違っても、目指す所は近いということなのかな?」
「はい、今は会社とその家族という枠組みで考えていますが、和馬のログハウス村関係者も興味を示しているそうです。
一つの会社の社員で構成される村落共同体に、お金持ちが参加するという展開、そこで何が起こるのか興味深いです。」
「村人の平等意識とかがどうなるのか面白そうだけど、清香は村長のうんと上の存在、村人との関係は?」
「私は村の守り神だそうです、会社や村が困った時に手助けする存在ですので仕方無いかも知れません。
ただ、神と崇めることはしないで欲しいとお願いしたのですが、すでに村人達の家には私の写真が飾られているそうで、変な新興宗教みたいにならないか心配しています。」
「はは、清香村だもんな、本間市長は地名を正式に変えることも有りだと話しておられたよ。
新興宗教でも良いじゃないか、村独自のものが有って村の歴史が作られて行くのだろ。」
「そうですね、村では女性を尊重するそうです、特に妊娠中や子育て中のお母さんには色々特権を付与する事で平和な村にするのだとか。」
「先祖伝来の風習は無いが新しい村の風習を考えてる訳か。」
「村人同士の結びつきはまだ弱いかもしれませんが、社員は新しい村を作ろうと集まった人たちです。
会社が順調で有り続ければ、豊かな村になるでしょう。」
「素敵な清香村になりそうね。」
「その名称には抵抗が有るのですが…。」
「守り神だから受け入れるしかないわね、株式会社柚木開発のオーナーでもある訳で。」
「お金持ちがお金持ちの役割を果たしているのだから胸を張って良いと思うぞ。」
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