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大下穂香-18 [化け猫亭-14]

「あっ、本間さん、もう帰られたのかと思っていました。」
「化け猫組情報を仲間に送っていてね、大下さんは、上がりなの?」
「はい…、もし宜しかったら猫田組の事を教えて頂けませんか、今までお話出来る機会があまり有りませんでしたので。」
「気になる事でも?」
「えっと…、本間さんは農業実習を済ませたのですか?」
「ああ、済ませたと言うより継続中だけどね、結構楽しいよ、大下さんも経験してみる?」
「う~ん、実際の所、嫌がる研修生はいませんでしたか?」
「自分達は何でもやるつもりで研修生になったからね、猫田組長の為なら死ねるよ。」
「そこまで…。」
「はは、冗談だ、組長もそんな事を望んでおられない。
そうだね…、研修の早い段階に討論会が有ったのだけど、その中で農業に対してマイナスイメージを抱いてる奴は何人かいたんだ。
その時、藤井が言ったんだよ、やった事もないのに、職業に貴賤はない筈なのに、先入観に囚われていて良いのかって。
そこから自分達も加わって研修に取り組む姿勢を強化したのさ。
実際に農作業を体験してみたら、体力作業も有るけど凄く大変という訳でも無くて、今は農業を希望している研修生も少なくない、工場で働くよりうんと良いと話す奴がいるぐらいさ。
作物にもよるのだろうが機械化が進んでいるからね。
農地も区画整理を進めて作業効率を上げて行く方向なんだよ。」
「そういった討論会や集団作業の過程でリーダー候補が出て来たのですね。」
「うん、百人いても烏合の衆では組長にご迷惑をお掛けするだけだろ、一般募集ではない組員の方々とも上手く付き合って行ける体制が必要だからね。
出所者の中には体力が有っても難しい事が出来ない人がいる、そんな人を引っ張って行ける様に研修を受けているんだ。」
「そこなのですが、塀の中にいらした方々とは上手く行ってるのですか?」
「今の所は色々教えて頂いてる段階、研修の一環としてね、塀の中での生活を自分達に話してくれた後、自分は戻りたく無いから協力して欲しいと話す人もいたよ。
犯罪を企む者に狙われない術や犯罪者を見抜く力、対処方法、風俗店の実態や違法行為をしないで風俗店を経営していく事の難しさ等も、経験を踏まえて教えて下さるから興味深い話が沢山聞けた。
彼等と個人的に話す機会はまだ少ないが、猫田組長に対する感謝の気持ちは皆さんお持ちで、組長に恥を掻かせる様な奴は承知しないと言われてる。」
「場合によっては、その方々の上に立つ可能性が有るのですよね?」
「有るというか、自分達は言わば幹部候補だからね、年齢は関係ない。
実際、土木や農業の現場では班長を研修生がやってるよ。
ただ、まずは自分達が藤井の下になる事で組織を作り易く出来ないかと考えてはいる、組長もお若いので気にし過ぎかも知れないけどね。」
「公募組には優秀な人が多そうですが、出所者組はどうですか?」
「そうだね、経験値の高い人が店の展開を仕切っている。
まあ、色々な人がいるので藤井や自分達の下で働いて貰う人も出て来るだろう。
組長からは、相手が五十歳だとしても能力が低ければパシリとして使ってやれと言われていてね、藤井達と企画してるイベントが継続的に成功したら、まずは運転手かな。
藤井は免許持ってないし、自分も移動中は自分の仕事をしたいからね。
余裕が出来たら必要性の低いボディガードとか、難しい仕事の出来ない人の為に仕事を作って行くのが自分達の役目でも有るんだ。」
「その辺りが普通の会社と違うのですね。」
「ああ、普通の暴力団組織とも違うよ、上納金を納めるより半端者をしっかり保護して欲しいと言われているんだ。
自分達がしっかり見栄を張れるだけの収益を上げろとも言われているけどね。」
「本間さんと結婚したら贅沢出来るのですか?」
「それは無いかな、収入は一般企業の部長ぐらいを想定しているが、見栄を張らなくては行けないので出費が多くなる、下っ端の給料は安いから飯とか奢らないと行けないのさ。」
「でも、それだけの自信をお持ちな訳ですね。」
「すでに収入を増やしているからね、藤井達と五人で副業を、猫田組長は自分達の為に使いなさいと話して下さったが、いずれは組の資金源にと考えている。」
「どんなお仕事なのです?」
「ネット関連、ただ、猫田組を通して自分達が出会わなかったら考えもしなかった事なんだ。」
「そういう話を聞かされると迷ってしまうのですよ。
普通に大学を卒業して就職と考えていたのですが、化け猫亭での出会いや、加奈お嬢さまのサポートを通して自分に何が出来るのかと。」
「やってみたい事をやったら良いさ。
やり直しは出来るし、どうしようもなくなったらパシリとして雇ってあげるよ。」
「え~、パシリですか~。」
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