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水野鈴江-05 [化け猫亭-07]

「深沢さん、こんばんわ。」
「おっ、覚えていてくれたか、鈴江ちゃんは店に慣れた?」
「はい、少しずつ…、深沢さん、お疲れですか?」
「昨日、山歩きに行って来た影響だから心配いらないよ。」
「無理はなさらないで下さいね。」
「大丈夫、まだまだ若いもんには負けられない。」
「深沢さん、私の知り合いに福祉系の大学を出た人がいるのですが、彼女から教えられた話しで印象に残っているのが有りまして、聞いて頂けます?」
「うん、どんな?」
「大学に入学してしばらくした頃、大学のプログラムとしてキャンプに行ったそうなのです。
そのキャンプでは軽い山登りをしたのですが、その時にされた注意が、絶対に頑張らない、頑張らせないという事だったのです。」
「また、生ぬるい山登りだね。」
「その大学には障害の有る人も普通に入学するのですが、過去に、体が丈夫では無いのに仲間が出来た高揚感から頑張ってしまい、周りも励ましてしまい、その結果体調を大きく崩し長期休学になってしまった人がいたのです。」
「それは、辛いな…。」
「深沢さんはご自身の体調を冷静にみられる方だと思いますが、もう、体力面では若者に負けても良いのではないですか。
勿論、気持ちで負けては老け込んでしまいます、私達若造を厳しく指導しながら、体調には気を付けて頂きたいです。」
「まいったな、孫から説教された気分だが、会うのが二度目の鈴江ちゃんに、疲れを見抜かれては反論出来ない、気を付けるよ。」
「生意気言って御免なさい、深沢さんは大事なお客様ですので。
ですが…、お疲れ気味でのご来店には何か訳が有るのですか?」
「久しぶりに会う約束が有ってな、もう直ぐ来る筈なのだが…。」
「あっ、車椅子の方が、失礼します。」

「嬉しいね、孫同伴だから気にしなくて良いのに、可愛い子達が気を使ってくれて、深沢、良い店だな。」
「だろ、この子は水野鈴江さん、新人だがしっかりした子だよ。」
「よろしくな、儂は高松幸太郎、これは孫の加奈、二十歳になったばかりだが近くの大学に通っているんだ。」
「よろしくお願いします、水野さんは大学で何度かお見かけした事が有ります。」
「ですよね、加奈さんはお綺麗だから、つい目が行ってしまいます。」
「顔は知っていても話した事は無かったのか?」
「はい、きっかけが有りませんとなかなか親しくなれません。
お久しぶりという事ですので私は席を外しましょうか?」
「いや、出来れば一緒に、加奈もいるからな。」
「分かりました。」
「高松は車椅子生活始めてから何年になる?」
「加奈が生まれる少し前だから二十年を越えたな。
事故で歩けなくなると分かった頃に加奈が生まれて元気づけられた、せめて加奈が二十歳になるまではと頑張って来たよ。
孫に甘いお爺ちゃんで、息子達には甘やかし過ぎるなと随分怒られたがな。」
「はは、加奈さんとは、たまにしか会って来なかったから会う度にその成長を感じてたよ、素敵な女性になったね。」
「まだまだです。」
「加奈さん、今時の女子大生が気になってる事ってなんだい?」
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