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水野鈴江-04 [化け猫亭-07]

「こう見えて神田は手話が出来るんだぜ。」
「あっ、私も一通りは。」
「そうなのか、では…。」

「おいおい、俺を仲間外れにして二人の世界に浸るのはよしてくれよ。」
「御免なさい、つい。」
「今日ほど手話が役に立った事はなかったかも。」
「だめです、ちゃんと真面目に役立てて下さい。」
「はは、真面目な活動もしているが、草野球の時にも使ったりしてね。」
「そんな使い方も…。」
「そしたら相手チームにも分かる奴がいて情報は筒抜けさ。」
「ふふ。」
「水野さんには面白い話ないの?」
「手話で愛の告白をしてる人を偶然見かけた事が有ります、その時は見ていてかなりドキドキしました。
男性のプロポーズを女性がすぐには受けなかったのですよ。
結局婚約は成立したみたいだったのですが、その時点で私の遅刻が確定していました。
公衆の面前、通学の時間帯にそういうイベントは遠慮して欲しかったですね。」
「はは、それは迷惑だったな。」
「つい見てしまったのは、男性の手話が広い会場でも通用する見易い手話だった事と女性の自信なげな表情で。
おそらく男性は聞こえる人、女性は…、なんて事を考えていました。」
「どういう事?」
「身近な人としか手話で対話しない人は動きが小さいのですが、ホールでの手話通訳は大きく分かり易くが原則なのです。
神田さんも私もそういうトレーニングをしています。」
「そうか、その男性は覚悟を決めたんだ。」
「聴覚障害者同士の結婚は結構有る、女性側は相手の事を考えて身を引こうと思ったのかもな。」
「はい、幸せになって欲しいと、心の底から思いました。」
「なるほどね。」
「水野さんは、離れた状態での対話練習してる?」
「はい、ホールでの手話通訳を意識していますので、この前は名古屋ドームの一塁側と三塁側で広島ファンの友人と、ちょっとしたバトルを静かに繰り広げてみました。」
「はは、結果はどうだったの?」
「試合は広島に負けてしまいましたが、友達との絆は深まった気がします。
携帯を使わずに離れた状態でも、互いの姿が確認出来ればメッセージを送れるのですよ、交わしてる内容は他愛のない事でしたが、楽しかったです。」
「へ~。」
「手話は聴覚障害者の為に発展したのだけど、違う可能性も秘めているんだ。
俺達はボランティア活動に従事しながら楽しんでもいるのさ。」
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