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猫田小夜-24 [化け猫亭-03]

「いらっしゃいませ。」
「こんばんは、小夜ちゃん、今日も綺麗だね。」
「有難う御座います、伊藤さん、ムショ暮らし体験、決心出来ましたか?」
「はは、勘弁してくれよ、それより今度は鑑定留置中の病院から、逃走事件が起きたね。」
「はい、近くの道は何度も通ってますので、びっくりでした。」
「驚いたよな、この前の事件とは違って遠くの出来事では無く…、東尾張病院は叔母がお世話になっていたんだよ。」
「中村さん、叔母様は鑑定留置だったのですか?」
「いや、躁鬱病で入院していたんだ、一度だけ見舞いに行った事が有るが、はっきり言って居心地の良い所ではなかった。」
「でしょうね…。」
「名古屋と言っても本当に外れ、大きめの公園が近くに有るからどうなるかと思ったな、比較的早く見つかったから良かったが、長引いていたらこの前の逃走事件以上に大変な事になっていただろう。」
「鑑定留置について、改めて考えさせられたな。」
「はい、鑑定の結果、責任能力が無いと判断されたら罪に問われないのですよね。」
「罪に問われないと措置入院なのかな。」
「どんな感じなのか…、鑑定留置からの流れは知らないが、そもそも精神科の患者自体が難しいんだ。」
「叔母様は大変だったのですか?」
「ああ、自殺未遂からの入院だった叔母は、落ち着くまで何年掛かったか分からない、歳を重ねる事で落ち着いたみたいだけど、それでも石が動くとか幻覚めいた事を話していた、何度も会っていないので実際の所は良く分からないが、家族は大変な想いをしていた筈、亡くなって、ホッとしたと言うのが本音じゃないのかな。
大体、精神科の治療はきついみたいなんだよ、薬の副作用がね。
アルコール異存で鬱病という人から、薬を飲んだ時に副作用で気が狂うと感じ、諦めて静かにしていると聞いた事が有る、まあ、人それぞれだから…、そういう人もいるという位に受け止めて欲しいが。」
「そうか、悪性腫瘍を切り取る様な治療では無いのだな。
心理カウンセリングとかはどうなんだろう?」
「それで解決する人は極めて症状の軽い人だけだよ、悪化する前に解決出来れば良いのだろうが、単純に成長してからのストレスだけが原因ではない人もいるそうだ、鬱病でも遺伝的要因が絡む事が有るらしい。」
「精神疾患でも、犯罪に繋がる人は多く無いのですよね?」
「ああ、人に危害を加える人は稀で、自死の方が問題じゃないのかな。」
「それでも鑑定留置という制度が有る訳だから…。」
「犯罪を犯す前に止める事が出来れば良いのでしょうが、犯罪を犯しそうだからと言って、簡単に措置入院とは行かないでしょうね。」
「さすがに人権問題となるからな、何事も無ければ普通に生活出来てる人が、何かのきっかけで責任能力を問えない状態になってしまう可能性は有るだろ。」
「う~ん、責任能力が有ると判断された場合、有罪となり刑期を終えて出所した後はどうなのかしら?」
「生活が安定しなければ同じ事の繰り返しか…。」
「責任能力が無いと判断されたら措置入院としても、退院の判断は難しく有りませんか?」
「だよな、はっきりしてる人ならまだしも、ボーダーライン上の人はね。」
「う~ん、伊藤さんは演技に自信は有りますか?」
「えっ、役者じゃないよ。」
「精神科に潜入して実情を探るとか難しいですか、患者として。」
「おいおい、ムショ暮らしの次は精神科かよ、それなら中村でも良いだろ?」
「中村さんにそんな事、お願い出来ません。」
「俺なら良いってか?」
「だって、伊藤さんなら楽しく切り抜けられそうじゃ有りませんか、気付いたら看護師さんと仲良くなっていたりして、入院生活から芽生える恋なんて素敵です。」
「そうか、看護師さんか…、通院している内に…。」
「そんなんじゃ駄目ですよ、入院しなくては距離が縮まりません、でないと潜入調査にならないじゃないですか、難しく無いですよ、酔っぱらった時の状態を昼間も維持出来ればきっと入院出来ます。」
「分かった、頑張るよ…。」
「おい、伊藤、一軒目で飲み過ぎてるとは思ったが、もうやばいのか…?」
「中村さん、ムショ暮らしと精神科入院、伊藤さんにとってどちらが良いと思います?」
「小夜ちゃん、二択なのか?」
「ええ、勿論です。」
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