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81-感謝 [岩崎雄太-09]

翌日、明香は知恵と健一の案内で村を周る。

「まずは一番奥の集落、一番初めに建てられた寮と工房へ行きますね。」
「知恵ちゃん、先輩方はどう? 優しくしてくれてる?」
「はい、優しい方ばかりです、そうでなかったらDV被害者の方々も安心して暮らせません。」
「そうか、逃げて来る人が増えてるのよね。」
「ええ、広い私有地の入り口に門も有るし、未登録車両が接近した時点で不法侵入者に備えるシステムが出来ていますから、ここに住んでいると分っても簡単には近づけません。
そんな情報を静かに流した事で移り住む人が増えているのだそうです。」
「かなりしつこい人も居るそうだから…、この村に住む人は皆、つらい思いをされてきた方ばかりなのね、私みたいに幸せな人生を送って来た人が、ここに居たら…、あなた方も嫌な気分になっているのかしら…。」
「お母さまは他の方とは違いますから、お金が沢山あっても自分や自分の家族の事しか考えない人ばかりなのに、お父さまとお母さまは社会の中で本当に困っている人に目を向け、一時的ではない継続的支援を実践して下さっている、ここの住民にとっては神様みたいな存在なのです。」
「そんなに立派じゃないわよ…、でもそうね…、初めて今の岩崎村をどうにかしようと動き始めた頃ね、雄太が、何人養えるだろうって話した事があって、あなた達のお父さまの永遠のテーマなのかも。」
「それなら、俺達も養う側にならなきゃな、知恵。」
「そうね、そうしたら、世の中の不幸がちょっぴり減るのかしら。」
「ちょっぴりが沢山集まれば良い訳だろ。」
「そうなのよ健一くん、でもね…、世の中のお金持ちは結構ケチくさくて、社会貢献で私達に対抗意識を持つ人が出て来る事を期待してたけど全然だめでね、逆にお金持ちでもない人達が積極的に支援して下さっている。
一番裕福な人が、一番貧困にあえいでいる人に手をさし伸ばしてくれれば、この国のバランスはもっと良くなる筈なんだけど。」
「どうなんですかね、さあ着きましたよ。」

「おう、健一、今日はどうしたんだ?」
「武井さん、今日は母の案内をしていまして。」
「こんにちは、何時も子ども達がお世話になっています。」
「あ~、大社長の奥さん…、ですよね…、ちょっと失礼します…、お~い、みんな~。」
「健一、武井さんには刺激が強すぎたみたいね。」
「はは。」
「どういう事なの。」
「食堂へ行けばご理解いただけるかも。」

「知恵ちゃん、この写真ちょっとやりすぎだと思わない?」
「そうですか、王と王妃という感じで…、改めて見直すと特別に修正もしてないですよね、あまりにお綺麗な写真だから修整されまくってるって、来た来た、あの詐欺師のおっちゃんが言ってたのですが、土下座させましょうか?」
「こらこら、だめよ。」
「奥方様ようこそおいで下さいました~。」
「ふふ、もう土下座してるし。」
「初めまして、岩崎明香です、そんな大げさにしないで下さい。」
「いえ、もう奥方様には感謝の言葉しか有りません。」

食堂に集まった人達は口々に感謝の言葉を、明香は多少戸惑いながらも笑顔を振りまいた。
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