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25-社長 [岩崎雄太-03]

一回目のインターンシップが終わりに近づいた頃、雄太は学生達との時間を持った。

「株式会社岩崎はどうでした?」
「初期投資の規模に驚きましたが、これほどまでの投資を決意された根拠…、と言いますか、利益を追求するだけなら他に投資先は有ったと思うのですが。」
「ここは会社の利益というより社員が安心して暮らせる田舎をイメージして、そうだね皆も知っての通り伯父さんの遺産で始めた事業なんだけど、その伯父さんは社会のバランスが崩れ過ぎていると話していたんだ。
君達はそれに気付いているから詳しくは話さないが、まあバランスの崩れた社会で廃村になった所を復活させるビジネスモデルを構築出来ないかと考えてね。」
「ビジネスモデルと言っても他の人には真似出来ないし、真似しようとも思わないでしょう。」
「そうだね、でも会社の規模が大きくなったら、人が見捨てた土地でもビジネスが成り立つと思って貰えないだろうか。」
「過疎地に可能性を感じさせる事が目的なのですか?」
「それも有るよ、今までの過疎化対策と言えばお役所仕事だろ、たとえ億の予算がついた所でマーケティングも考えられない様な職員の悪あがき程度にしかならない、能力の高い人がいても限られた予算で何とかなる様な問題でもない。
だが、充分な初期投資をして環境を整えれば、安心して働ける環境を作る事は可能なんだ。
その中で収益を上げて行けば会社として充分成り立つのさ。」
「しかし、これだけの投資を回収するのはビジネス的にはきつく有りませんか?」
「きつい? 岩崎家をなめて貰っては困るな、何かしらのトラブルが有っても今の社員全員養えるレベル、中途半端な投資ではないからきちんと収益を上げられると考えているよ。
もっとも、利益は次への投資となるから当分の間赤字企業、だが借金はない、岩崎家の財産を少し減らす事にはなるけどね。」
「それが、このエリアに経済効果をもたらすという事でしょうか?」
「その通りさ、造成工事などはこの経済圏の業者に頼んで来たからね。」
「実は…、うちの教授は大金持ちの道楽だと話していたのですが…。」
「そう思われても仕方ないが、親父もお爺さまも金持ちの挑戦と考えているんだ。
金持ちにしかできない大きな社会貢献を、過疎化を食い止め森を守る形で出来ないかとね。」
「挑戦というのは?」
「俺達には多くの社員やその家族に対して責任が有る。」
「あっ、その視点は…、見落としてたというか…、社長と言うのは大変なのですね。」
「わが国の経済環境は決して安定したものではない、だから親父の会社も色々備えて来た訳だ。」
「そうですね、企業の内部留保など疑問に感じてましたが…、立場が違えば…。」
「だが、親父もお爺さまも身内の安定に走り過ぎていたと気付いて下さったのだよ。」
「どういう事です?」
「守りの姿勢が内需拡大の妨げになっていたと気付いて下さったのだ。」
「あっ、もしかして、お父上の会社での給与体系見直しは社長の発案だったのですか?」
「まあね、子どもを育て易い環境を作り出せば、良い人材も得やすくなる。
非正規だった人も極力正社員にという方向、成功すれば内需拡大にささやかながら貢献できるでしょ。
ここの社員だってきちんとした給料を支払ってるから安心して結婚を考える事が出来るのさ。」
「正直、社長のお話を伺うまで誤解をしていたかもしれません、お金持ちって持ち物や総資産を自慢したり、ブラック企業で人の事を考えない社長がいたり。」
「あんな人達は成金だからね、うちみたいな歴史の有る家柄とは違うのさ。」
「社長、株式会社岩崎は来年も新卒を雇う予定有りますか。」
「ああ、若者が移住して来ないと続かないからね。」
「私、ここで働きたいです。」
「君の評判は聞いてるよ、内定という事で良いかな。」
「有難う御座います、就職までに身に付けて置くべきスキルは何でしょう?」
「そうだね…、今回の体験を思い出しながら、自分がここでどんな役割を担うのが会社にとってプラスになるか考えたら答えが出て来ないかな。
すぐに思いつかなかったら、メールで先輩に相談しても良いし、また遊びに来たらいい。
事前研修という形も有りだから交通費も会社で負担する、佐藤副社長と相談してね。」
「有難う御座います、よろしくお願いします。」
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