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90-温故知新 [キング-09]

八カ国の受け入れには三か月、全部の単独居住コロニー受け入れには半年ほど掛かった。
新たな住人がこの世界の生活に慣れるには、まだ時間が掛かるだろうが、今の所大きなトラブルは起きていない。
このタイミングで余剰食糧をマリアが引き取る事がなくなった。
この事からも、マリアの管理下に有ったすべてのコロニーが我々の世界の一員となったと判断出来る。
今現在、人口七十人から百五十人程度の十四カ国と、多くの少数民族を抱え二千人を越えた和の国を合わせ、この世界の総人口は三千五百人近くになった。
翔はまもなく九歳の誕生日を迎える。

「まだ先の事なのだが、今後の人口増加と食糧事情を予測した結果、翔が二十四歳になる頃からスペースに余裕がなくなりそうだ、孫世代の誕生に関しては予測しにくいから、かなり誤差は有ると思うが。」
「産児制限が必要になるのかしら、気にしてる国民も結構いるわよね。」
「それは必要ないと思います、おそらく僕らが十六歳になる前後に何かが変わるのではないかと思います、まだ教えられていませんが、今までの状況から推測した結論です。」
「尊、子どもは増えた方が良いの?」
「はい、マリアさまはより多くの遺伝子を残す為に小さいコロニーの子ども達も見捨てなかったと思っています。」
「城の子もか?」
「弟や妹は沢山欲しいです、他の子達も可愛いですが、城の子は少し違いますから。」
「という事は、産児制限なし、安心して子を産み育てよ、キングの名で布告するか尊の名で布告するかだけど。」
「そうね、尊の考えに沿っての布告、明日の世界に関する事だから尊で行きましょうか。」
「布告に伴って演説するか、尊、布告の根拠を世界中の人達に知らしめる必要が有るぞ。」
「演説というか説明は僕がしますから父さんとの連名でお願いします、良いでしょ、父さん。」
「ああ、問題ない。」
「夫と息子から子を産めと言われるとはね…。」
「言われなくてもがんばるでしょ、麗子も。」
「昔、早くに子を産んだ友達から聞いてた程、ここでは大変じゃないからね、二十人ぐらい産んで上げようかしら。」
「はは、ぜひ頼むよ君はキングの子を五人産んでも、ここへ来た時と少しも変わってないからね。」
「城の住人が十年変わらないのは、城が特別な場所だからとは分かっているけど、ちょっと複雑な気分だわ。」
「だろうな、でも、ずっとマリアさまの管理下と考えるかマリアさまに守って頂いてると考えるかだろ。」
「子ども達程でないにしても私達も特別な存在、私は受け入れているわよ、気を付けていないと過去のひどい記憶を忘れてしまいそう、でも忘れてしまったら、この世界がどれ程の楽園なのかも忘れてしまいかねない…、楽園に暮らす喜びを忘れないで子育てして行きたいわね。」
「ねえ…。」
「どうした、尊?」
「城の大人の過去は少しだけ教えて貰ってる、でも僕らはもっと知らなくてはいけないと思う。」
「そうだな、私達の過去は決して良い手本ではないが未来へ向けての参考にはなるかもしれない、世界が安定しつつ有る今、尊と巴が中心となれば大人達の負担も少なく聞かせて貰えるだろう、そうだな城の子による聞き取り調査という形で良い、思い出したくない事を思い出させてしまった対面後のフォローが必要になった時は私がするよ。」

実際にはフォローの必要はなかった、かえって城の子による調査は人々の心を軽くした様だ。
城の子との対話を誰しもが喜んでいた。
そして子ども達は多くの事を学んだ。
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