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事業展開-17 [安藤優-10]

桜根グループは元々内需の拡大安定を重視していたので輸出には積極的ではなかった。
だが、若きプリンスによる海外展開は、その熱意に動かされる形で多くのグループ企業が後押しする事となる。
ある工場では。

「工場長、輸出向けの作業をしていて思ったのですが、同じ商品でも暑い国と寒い国、住宅の環境による湿度の差とかによって劣化の速度が違いませんか、そこにもっと配慮が有って良いかと思うのですが。」
「うん…、そうだな、確かにもっと意識するべきだ、ダイレクトにつぼみ本社へ打診するよ…、日本で質が良いと思っていても輸出先の環境に合わなかったら…、使用環境温度の上限下限は設定しているが、暑い国へマイナス十度まで耐えられますというよりは、その分高温に耐える商品にした方が喜ばれるだろうからな。」
「そのまま、北海道向けと沖縄向けとして反映出来ませんか。」
「ああ、それも付け加えておくよ。」
「ところで工場長、輸出向けは利益率が低いと聞いてますが、実際の所どうなんです。」
「う~ん、君からそういう話が出てくるという事は…、もう少し広報に力を入れなくてはいけないのかな、確かにうちの会社の取り分は少な目だ、だがそれには色々な事情が有ってね。
まず、輸出に対する依存度を上げたくないという事が有るんだ。
桜根が海外の経済的要因によって不安定になる事の無い様にと設立当初からの方針でね、あえて利益率を下げる事で業務のメインにしにくくするという面が有るのさ。
でも海外展開は国際貢献の意味合いも有って進めて行きたい所で…、というより桜根の海外展開は国際貢献を目的としていると言っても良いんだよ。
輸出で稼ぐというより、輸出で得られた利益は極力その国での事業展開に還元して行きたいと考えているんだ、もちろんこちらにとって赤字になる様な事にはしないがね。
この形は以前から取られていたけど、海外展開は日本国内の様には順調に行ってなかったんだ、そこを我らがプリンス安藤優が先頭に立って動き始めた訳だ、うちも色々お世話になってるから、彼の活動を積極的に後押しして行きたいと考えてる訳さ、うちの利益が少なくても応援して行こうってね。」
「国際貢献ですか、そういう考えとは…、すいません勉強不足でした。」
「上の連中は皆、桜根の理念を守りつつ、桜根グループをどこまで大きく出来るかと考えているんだよ。」
「大きくすると言えば、中流の拡大と聞きましたが、今一つピンと来てません。」
「うん、そうだね…、私にとっても歴史を学ぶ事で知った事なんだけど、高度経済成長期に一億総中流という言葉が有ってね、まあ経済的にまずまずの家庭が多かったという事かな、それが目先の利益に捕らわれた人達による可能な限り人件費を抑えるという風潮の結果、生活に余裕の有る層と貧困層の二極化が進んでしまった。
それに対して桜根は中小企業の安定を図りつつ貧困層を中流層に、という考え方で進んで来たんだ。
グループ企業の社員で有れば中流と呼べる暮らしが出来るだけの収入が有り、それが購買力となって桜根グループを支える、そんな形を作り上げて来たのさ、簡単な事ではなかったけどね。
貧困層が桜根グループ社員となれば暮らしぶりも良くなる、直接うちが雇用しなくても桜根が給与水準を上げれば他社も追随せざるを得ないという環境を作るためにも、桜根にとってグループの拡大は大きな目標だった、そして国内での成功を支えに海外でもという事になってる訳だ。」
「う~ん、そうでしたか…、今更ですが、自分の会社を誇りに思います、あっ、だから役員報酬が他社と比べてかなり安く。」
「ああ、安藤CEO始め、桜根関連企業の役員たちは私より少し多いくらいだよ、ちっぽけな会社じゃない、判断を誤ったら大きな損失に繋がる責任有る立場にいながらね。
役員達が、役員報酬に使うぐらいなら次への事業展開へ、という安藤CEOのお考えに賛同している人達ばかりだから、社員も皆、尊敬してついて行けてるとも思うけどな。」
「ヘッドハンティングにあったりしないのですか?」
「転職される方もみえる、安藤CEOが誘われたらどうぞと話しているぐらいだからね。」
「でもそれじゃあ優秀な人が流出してしまって…。」
「今は引退されたが、杉浦さんという方がみえてな、桜根のスタートの頃に手伝いに来て下さっていた方なんだが、結構大きい会社からのヘッドハンティングを受け入れてね、実力の有る方だったから後にそこの社長まで登りつめたんだ。」
「へ~、すごいですね。」
「いや、すごいのはそこからだ、その会社を解体して、まだまだ小さかった桜根グループの傘下に入れてしまわれたんだ、桜根の拡大路線には大き過ぎる功績だったね。」
「そんな事が…。」
「まあ、うちの役員を狙って来る企業はそれなりの覚悟が必要になったという事さ。」
「うわ~、うちの社史なんて気にしてませんでしたが。」
「もう一度俺達の会社を見つめ直してくれるかな。」
「はい。」
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