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幼い頃-04 [安藤優-01]

言葉を話し始める前、優は相手の顔を見ている事が多くなった。
これは当たり前の事かもしれない、だが色々な言語で話し掛けられている事を考えると気になる所では有った。
始めて話した言葉は、とーたん、だったと父親は言い張るが定かではない。
何にしても日本語だった事は間違いないようで、両親は少しばかり安心したそうだ。
話し始めた頃は何語か分からない事も良く有った。
だがベビーシッター達の努力の成果か優の能力がなせる技なのか、徐々に人と言語が一致していき、ドイツ語を話す人にフランス語で話しかけたりはしなくなる、きちんと相手の顔を覚えている様だった。
ただ初対面の人だったり、英語で話していた人が急にフランス語を話始めると戸惑っていた、まあ当たり前の事だろう。
徐々に話す言葉も増えて行ったが、言語によって学習速度は大きく異なった。
ずっと見守っている母親によれば、明らかに人の好き嫌いが反映していたそうだ。
例えば、来る回数の少なかったドイツ人男性が好きだったようで、回数の割に語彙が急速に増えた。
結果、英語、フランス語、ドイツ語、中国語、スペイン語は三歳の時点で、それらの言語を母国語とする三歳児と、ほぼ同程度に話せる様になっていた。
かと言って日本語がおろそかになっていた訳ではない。
日本語の語彙がかなり豊富になっていたのは父親による所が大きい。
子どもの疑問、質問に丁寧に答えてきたのだ。
彼自身その様に育てられたという。
ただ父親が困ったのは、優にフランソワがこう話してたとフランス語で話される事だった、フランス語に接した事がなかったからだ。
しかしそれも教育のきっかけとした。
大きな世界地図と地球儀を用意し、世界には色々な国が有り色々な言葉を話す人がいて、と彼のベビーシッター達の説明をしたのだ。
この事は何となく分かりかけていた様で理解に時間は掛からなかった。
そして優は訳すという事を学び始める。
これは結構大変な作業だ。
言語によって同じ様な意味でも微妙に違う。
ただ、子どもの事なので多少の間違いも気にしない、大人達も彼が多少間違えて通訳したとしても困る訳ではない、普通の幼児が多少的外れな事を話していても、笑って済まされるのと同じ事だ。
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