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「ねえ、どうする?」 [檜を植える人]

「ねえ、どうする?」

小さな公園の小さなベンチ。
学校帰りはここでちょっと空腹を満たしながら、だべるのが私達の日課。
揺れる秋桜を見ながら明子がつぶやく。
「ねえ、どうする?」
どうする? の一言は目下の私達の最重要課題、進学の問題を意味する。
「どうしよう。」
「あそこは、新設ってとこが問題なのよね。」
「うん、親にも言われた。
新設だと、先輩が居ないし実績もないから就職の時に不利じゃないかって。」
「でも、新設だから面白そうなんだよね。」
「うん、うちのお兄ちゃんもね、就職の時の景気なんて今からじゃ解んないんだから、面白そうなとこへ行っとけばいいんだぞ、って。」
「おお、さすが彰人先輩だ~。」
「問題は倍率とかなんだけど…。」
「理恵の偏差値なら大丈夫じゃないの?」
「でもさ、人気出そうだし。」
「そうよね、明るい未来を創造しよう、だもんね…。」
「景気が悪いとか、地球温暖化とかのニュースばっかじゃ暗すぎ。」
「うん…。」
「明子はボランティア活動の実績が考慮されるんでしょ?」
「そうは聞いてるけどね…、そうそうボランティア活動の中心になってる人がね、あそこのキャッチに、ぐっときたって。」
「キャッチ?」
「ほら、檜を植える人になりませんか、ってやつ。」
「ああ、あれか。」
「自分も入学したくなったって…、七十過ぎのおじいさんなのよ。」
「え~。」
「年老いても植林地を守っている人たちは、自分のためではなく子孫の為に檜を植える。
自分が生きている間にその木が立派な成木になることはない。
でも、植える。
自分も子孫の為になることを成し遂げてから死にたいって。」
「重っも~。」
「特別入試の枠も有るから挑戦してみようかなって。」
「へ~。」
「とにかく活動的な人だから、同じ講義を受けることになったりして。」
「はは、おじいちゃんのクラスメートか…。」

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2010-04-15に書いて、そのままになっていました。
手を加えずにUPして檜を植える人の完結とさせていただきます。
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