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変革-9 [権じいの村-12]

「おっ、吉川、そのブルゾンいいな、新商品なのか?」
「ああ、デザインが気に入ってさ、思い切って買っちゃったよ。
なんせデザイン賞ものだからな。
流行る前に着てた方がかっこいいだろ。」
「はは、そうか、ちょっとしたこだわりってことかよ。」
「まあな…、でも前の自分だったら絶対買えなかった値段を思うとさ、ここの新党宇宙のロゴ、俺にとってはめちゃくちゃ大切なものなんだ…。
加藤…、俺、まだ夢を見ているような気分だよ。」
「何が?」
「国営企業で正規採用してもらえて安定した収入のある生活してるなんてさ。」
「はは、実は夢なんだよ。」
「そ、そうか…? はは、ほっぺをつねると、ちゃんと痛みを感じるぞ。」
「それも夢さ…、な~んてな。
確かに…、俺達、日雇派遣だった頃は安定した収入なんて考えられなかったもんな。
今と同じように真面目に仕事してたのにさ。」
「うん、加藤が誘ってくれなかったら俺…、頭悪いからさ…。」
「吉川は真面目じゃん、だから雇ってもらえたんだよ。」
「でもさ、前は民営化民営化って偉い人たち言ってなかったか?」
「たしかに前政権ではそうだったな、でも、俺は頭に来てたんだ、民営化ということは企業努力をしろと、そして企業努力とは人件費を抑えることだと考える奴らばかりだったからな。
結果、正規雇用の場が減ることになる。
なぜか正規雇用の場が減る政策を、この国の国民は支持してたんだ。」
「じゃあ、なぜ今、俺達の国営企業が…、今、規模を拡大してるって聞いたけど。」
「うん、それは慶次さんのお考えなんだ。
行き過ぎた競争社会の被害者を国営企業で支えようとね。
できれば利益も上げて、それを社会福祉の充実に使いたいとも。」
「そう言えば儲かってんだよな、うち。」
「ああ、ヒット商品が多いからな。
新党宇宙関連グッズなんか、ばか売れだぞ。
吉川と同じように、新党宇宙のロゴを大切に思ってる人は少なくないし…、そうだよな、そのロゴの入った服を着ている人、党のバッジを着けてる人を見ると、全然知らない人でも、慶次さんのお考えを支持してる仲間なんだって思える、つい、お早うございますって自然に交わしてるからな。」
「はは、そんな挨拶から付き合い始めたと言ってた治美さんとはどうなんだい?」
「決めたよ。」
「えっ?」
「春に式をあげるよ。」
「そうか、おめでとう。」
「ふふ、これからは吉川とは給料にどんどん差がついていくぞ。」
「どうして?」
「結婚したら治美は仕事の時間を減らすことにしたんだ。
それと同時に俺の給料が上がる、まぁ扶養手当ってことだ。
そして、子どもが出来たらさらに扶養手当が増えるということさ。」
「そうか、そりゃ子育てとか大変だろうからな。」
「同じ仕事をしていても給料に差が出来るということは、この国の将来を支える子ども達を育てる、という仕事もしてるという意味合いがあるのさ。
日雇派遣だった頃には、自分の子を育てる、なんて考えてもいなかったからな。」
「そうか…、なあ…、加藤、俺、好きな人が出来たんだけどさ…。」
「えっ。」
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