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山村体験-6 [権じいの村-5]

「白川先生、権じいはずっとこの村を見守ってきたのですね。」
「はい、高柳さんもそう感じますか。」
「なんか人間って小さいですよね、何百年もこの地に根ざしてる権じいを見上げていると…。」
「はい、同感です。」

「私の人生は色々あって、色々迷って、結局何も見つけられなくて…。
ちょうど派遣の仕事を切られた時に、この企画を知りましてね。
初めは過疎の村を体験なんて、新手の詐欺で、タコ部屋送りかとも思いましたよ。」
「はは、そういう世の中になってしまいましたね。」
「ま、説明を聞いてる内に…、しばらくは寝ることと食べることの心配がないのなら、最近旅なんてしてかったし、なんて軽い気持ちで参加をお願いしたんですけどね。」
「こちらとしては助かったんですよ、今の段階では誰でもいいという訳にはいきませんから。
村の人たちに悪いイメージを与えかねない人を受け入れるだけの余裕はまだないんです。」
「と、いうことは先々…?」
「何を、どこまでやれるかな、って感じですね。
豊かな自然があって、人の住める土地があって、ないのは便利な生活と安定した仕事。
でも、今の世の中、本当に利便性を求める人たちばかりなのか。
この村を離れていった人たちと違う視点が、都会生活に疲れた人たちの心に有りはしないかって思うのです。」
「そうですか、私は昨日、時計を持たずにあちこち散策してみました。
天気が良かったから太陽が時計代わりで、日が暮れる前に戻れば良いなんて気分で…。
風が木立を揺らす音、谷を流れる水の音を聞きながら、森の木々を見ていたら、時間に縛られていた頃の自分が馬鹿らしくなりましたよ。」
「確かに、森に入ると私ものんびりした気持ちになります。」
「でも白川先生はプロジェクトの中心人物って聞いてますから、お忙しいんですよね?」
「まぁそうなんですが、優秀なスタッフに恵まれましてね、私が権じいの下でのんびりしてても問題ないんですよ。
彼らが私に高柳さんとの時間を作ってくれてるってことですかね。」
「確かに優秀な人たちが集まってるって感じます、やはり白川先生の人徳ですか。」
「いえいえ、そんなんじゃなくて…、夢なんですよ。」
「夢ですか…。」
「学生たちだって、卒業後の就職に不安を感じてたり、迷ったり悩んだりしてる子も少なくありません、院生たちだって似たようなものです。
無事卒業できても、無事就職できても…、ってのが学生たちの現実なんです。」
「そうでしょうね、分かる気がします。」
「前向きに、自分の就職した会社で自分の力を発揮したい、と思っていても、現実のひどさは色々な情報として彼らに届いています。
それでも生活のためにはという感覚で割り切って…。」
「今の日本はどこかおかしいと思います、人が大切にされてなくて…。」

「そんな背景もあって、学生たちには色々な話しをしています。
簡単ではない過疎の村の再生を、俺たちの挑戦として取り組んでみないか。
一人の力は小さくても皆の力を集めて、やれることをやってみないか、とか、色々…。」
「あっ、過疎の村再生だけが目的ではなくて、学生たちの再生の場でもあるのですね。」
「はい、そして都会で暮らす低賃金で不安定な労働者をも、再生できないかと思っています。」
「はは私たちのことですね、学生たちもこの視点で?」
「最初は半信半疑だったでしょうが、最近は学生たちも理解が進んで色々な夢を描いてくれるようになってきました。」

「どうなのです、このプロジェクト…、その勝算は?」
「この村だけに限れば過疎の村再生はできると思っています、ここはすでに多くの大学の力が集約されていますから。
多くの実験研究をここに集めることで相乗効果もあるんです。
ただ、結局は、裏技でしかない訳で…。
他の過疎地の再生を考えると、勝算はほとんどありません。
でも、ここでの活動が多方面に色々な影響を与えることになれば、面白いとも考えていましす。」
都会で低賃金労働をしてる人が田舎暮らしを決意してくれて、その人たちをここみたいな村が受け入れてくれれば、この国がもっとバランスの取れた国になると思っています。」
「そういう大きさで考えてらしたのですか…。」
「はは、夢みたいな話しでしょ。」
「まずは、権じいの村からなんですね。」
「はい。」



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