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作家 [短編集-2]

机の上の何も書かれていない原稿用紙を夕陽が赤く照らす。
その横には使い込まれたペンが。
その前に座っているのは山県緑樹三十五歳、ある文学賞を受賞し作家デビューして間もない。
ペンネームの山県は郷里岐阜県の山県から、緑樹は山の緑の木という感じで結構簡単に決めてしまったらしい。

今は新聞社から依頼された短編に取り組んでいるのだが、締め切り時間が迫ってきているというのに一文字も書けていない。

朝からの彼の行動というと…。

机の上に原稿用紙を広げる。
ペンを置く。
少し構想を練ってみようとする。
何も思い浮かばないのと昨晩の酒が残っていたのか、しばらくうとうとする。
はっと、目を覚まし、時計を見てから原稿用紙に目を落とす。
どうやら、締め切りに間に合わなかった夢を見たらしい。
トントントントン…。
指先で机を叩き始める。
考え事をしている時の彼の癖で、家人は、いらつくと言ってトントンしてる時は近寄らない。
まあ、その方が彼にとって都合が良いのだが。

おもむろに立ち上がって庭を見に行く。
しばらく紫陽花を眺めた後、部屋の中を歩き回る。
分かり易く言えば動物園のオリの中の熊だ。

ちらり時計に目をやりテレビをつける。
毎日見ているお昼のメロドラマが終わると遅めの昼食。
昨日買ってきておいた、こだわりのカップ麺にお湯を注ぐ…。

どうやら満足したようで、食べ終わったカップ麺の名前をメモ。
そこへ新聞社から電話が入る。

「どうです、短編の方は締め切りに間に合いますよね?」
「はは、郵送で済ますつもりだったんですけどね、夜にでも取りに来ていただけますか。」
「わかりました、じゃあ七時頃でよろしいですね?」
「そうですね…、まぁゆっくり来て下さい。」
「そうも言ってられないんですよ、作品完成後のスケジュールはもう組まれていますからね。」
「そ、そうですよね。」
「とにかく山県先生らしさが出てれば、どんな感じでも構いませんからね。」
「は、はい。」

電話を切り、机の上の夕陽に赤く照らされた原稿用紙に目をやる山県。
今度は髪の毛を両手でかきむしり始める。
追い詰められた時に出る彼の癖だ。

突然、動きを止めペンを手に。
原稿用紙に向かっておもむろに書き始める。

--------------

机の上の何も書かれていない原稿用紙を夕陽が赤く照らす。
その横には使い込まれたペンが。
その前に座っているのは山県緑樹三十五歳、ある文学賞を受賞し作家デビューして間もない。
ペンネームの山県は郷里岐阜県の山県から、緑樹は山の緑の木という感じで結構簡単に決めてしまったらしい。

今は新聞社から依頼された短編に取り組んでいるのだが、締め切り時間が迫ってきているというのに一文字も書けていない。

朝からの彼の行動というと…。



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コメント 5

ぽてころころ

はじめまして、コメントありがとうございます。
イモリに興味があったのですね、息子に伝えます
きっと仲間ができたと喜ぶと思います。
ちなみにカナヘビも興味あります?
by ぽてころころ (2008-06-20 22:15) 

kiko1578

何かどこかで読んだような気がしてます。
by kiko1578 (2008-06-20 22:38) 

おにい

> ぽてころころさん
 両生類も爬虫類も好きです。

>kiko1578
まあ誰もが思いつくようなネタなんでしょうね。(笑)
by おにい (2008-06-20 23:12) 

mona

>原稿用紙を夕陽が赤く照らす
いいなー♪想像しちゃいましたよ^^
by mona (2008-06-21 00:16) 

おにい

>monaさん
ありがとうございます。
誰もが思い浮かぶようなネタでも自分だけの作品だと思っています。(笑)
以前にお題をいただいた、癖と時計を微妙に入れてみた自己満足的作品です。
by おにい (2008-06-21 00:32) 

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