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薔薇-5 [Lento 14,薔薇]

さわやかな風が緑の木立をやさしくゆらす、そんな公園の散歩道。
岩倉高雄は皐月躑躅、そうサツキの花にピントを合わせていた。

後ろから声が。
「やっぱり早く来ていたんだ、高雄。」
白いドレス姿の、由香里が微笑んでいる。

「うん待ち合わせ場所をここにしたのは待ってる間に何枚か撮ってみたかったからなんだ。」
振り返って応える高雄。
「高雄はいつもそうね、私を待たせるなんて考えたことないの?」
「ないな、人を待たせるより…、君が来るのを待ってた方が楽しいし、う~ん今日は白なんだ。」
「はは、どう?」
「似合ってるよ、じゃあ一枚撮っとこうか?」
「ふふ、もう、いっぱしのカメラマンね。
「そうそう、高雄、おめでとう、あの薔薇の写真がLentoの休憩室に飾られたということは、就職内定というよりほぼ確定なんでしょ?」
「うん、自分の自信作もなかなか認めてもらえなくて結構プレッシャーだったんだけどね。
どうやら、謎の師匠からもOKが出たそうなんだ。」
「えっ? 謎の師匠って、白川さんの知り合いっていう?」
「ああ、今になって思うとすごく色々なことを教えていただいた気がする。」
「へ~。」
「一月頃だったかな、白川さんから、君を型にはめる気は無いんだけどね、って感じで話しが始まってさ。」
「うん。」
「自分の知り合いが僕の写真を見て、違う角度からも撮らせてみろっ、て言ってるんだけど、って。
それならば、ということで、とりあえず横からとか上からとか同じ被写体を色々撮って白川さんに見ていただいたんだ。」
「どうだったの?」
「大笑いされてしまったよ、90度角度が違っていても写真家としての角度じゃないって。」
「写真家としての角度?」
「言葉に込められていた意味は色々な視点で被写体と向き合えということだったんだ。」
「へ~。」
「それからは色々な課題をいただいてさ。」
「どんな?」
「梅の花を遠くから、それを写して白川さんに渡すと、梅に近づいて、そして、もっと近づいてって感じでね。」
「ふ~ん。」
「始めのうちはよく分からず撮影していたんだけど、少しづつ課題の意味が分かりかけた頃からは、課題というより質問になってきてさ、目の前の真子さんは何を考えているのかな? ってな感じのね。」
「高雄の写真の進化には気付いていたけど、そんな裏があったのね。」
「最後のアドバイスは、被写体を愛しなさい、しばらく君の作品を静かに見守るから自分で色々考えて沢山撮って、きちんと選らんだのを色々な人に見てもらいなさい、ってことなんだ。」
「う~ん、重い一言。」
「ああ、ただ、この言葉をいただいた頃からLentoのサイトに自分の写真をUPしていただける回数が増えてきたからな。」
「そうか、謎の師匠さんも、少しは高雄の写真を認めて下さってたんだ。」
「うん、そう信じたいよ。」


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