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柳原真子と横山葉子 [Lento 1,春から初夏]

「ねえ葉子、先崎くんのバイオリン、最近ぐっと良くなったと思わない?」
「良いわよね~、足が長くて甘いマスク~。」
「あらま、葉子のタイプだったんだ、で、バイオリンは?」
「真子、それより早く着替えを済ませて休憩室へ行きましょうよ。」
「そうねロッカールームで聞くより休憩室の方が音が良いもんね。」
「モニターで先崎くんチェックできるし。」
「はは、そういうことか。」
「もう一時間長いシフトだったら生で見れたのにな~。」


休憩室では数人のスタッフがくつろいでいた
言葉を交わした後、紅茶を用意
二人はモニターの見える位置のソファーヘ

「ねぇ真子、今度のスタッフパーティー参加するの?」
「参加に決まってんじゃない。」
「私も参加してみようかな。」
「ふふ、初参加ってことね。」
「なんで笑うのよ、日曜の夜は、ずっと続けてるサークルの活動日なの、たまたま次回はそっちが休みになったからさ。」
「なら、パーティーは参加しない方が良いかもね。」
「どうして?」
「サークルやめたくなるわよ。」
「そんなに楽しいの?」
「教えてあげない。」
「い、いぢわる!」
「ふふ。」
「ねぇ少しは教えてよ、スタッフの参加は自由と聞いていたけど、今まで行けなかったから、あまり気にしてなかったの。」
「ふふ、では少しだけ説明してあげよぉ~。」
「毎週やってるんでしょ?」
「そう日曜日のLentoは夕方までだし、月曜日は定休日だから、正社員の人は皆勤の人が多いわね。」
「どんな人が参加してるの?」
「もちろんLentoのスタッフよ、ゲスト演奏者も参加してるわね。」
「で、どんな感じなの?」
「参加したかったら事務室に参加申し込み表があるわよ。」
「え~、結局詳しくは教えない気なのね。」
「ふふ。」
「じゃ帰りに事務室に寄って行くわ。」

先崎の演奏が終わると二人は事務室への階段を下りた。

「葉子、この表に丸をつければいいのよ。」
「あれ? 私以外全員丸になってる…。」
「いつものことよ、ちなみにあなたは、ある意味有名人なの。」
「えっ? どんな風に。」
「スタッフパーティーに参加してない唯一のスタッフでバイトランクが低いままだってことね。」
「え~知らなかった、そう言えば後から入った人たちにずいぶん抜かれた気もする、でもランクが低いから、たまにしかシフトに入れなくて…。」
「ランクが上になると給料も良くなるし、シフトに入る優先順位も上がること忘れてなかった?」
「あんまし考えてなかった~。」
「やはりね~、まぁ次の日曜日は私がフォローしてあげるわよ。」
「う~ん楽しみな様な恐い様な、真子頼むね。」
「ふふ。」

次の日曜日、日も暮れた頃のLentoのホール

「真子めっけ。」
「おう葉子。」
「ねえ、Lentoのスタッフってこんなに大勢いたのね。」
「シフト制で夜もやってる店なのよ、当たり前でしょ。」
「そうか~私の知らない人も多いわけね、そろそろ始まるの?」
「もう始まってるわよ。」
「えっ? 私、遅刻?」
「遅刻という概念はスタッフパーティーにはないわね。」
「どういうこと?」
「遅刻早退自由なの。」
「そっかぁ~、私向けじゃん。」
「ふふ、何か気付かない?」
「なに?」
「服装とかさ。」
「あ、仕事中の格好してる人が何人かいるわね、どうして~?」
「トレーニングしたいんですって印なのよ。」
「えっ? どういうこと?」
「まあ見ててごらんなさい。」
「あの子は新人よね。」
「そうよ。」
「あっ、先輩に立ち居振る舞いのアドバイスをしてもらっているんだ。」
「パーティは元々スタッフミーティングだったの。」
「そうなんだ、でもレクチャー受けてる割には楽しそうね。」
「教える側も新しい仲間に早く慣れて欲しいという気持ちがあるからね。」
「もしかして…。」
「なあに?」
「私を追い抜いていった後輩たちは…。」
「ビンゴ~、みんなここで積極的にアドバイスを受けていたわね。」
「あ~、なんか仲間はずれにされてた気分。」

葉子が他のスタッフに紹介されている間に、ホールには食事が運ばれて来ている

「あのさ真子、紹介される度に、例の葉子さんですね、とか、あの葉子さんねって…。」
「ふふ、ある意味有名人だって言わなかったかしら。」
「それにしても、さっきの人ったら、いきなり葉子さんですね、だって。」
「まぁ噂は広まってるだろうし、今日の会場で知らない人を見かけたら葉子だと思うわよ。」
「はぁ~、そうなんだ。」

「さぁ葉子、何食べる?」
「そうね、あれ? 誰が料理したの?」
「ふふ厨房でも仕事の格好してる人いるでしょ。」
「そうね、でも彼らもパーティー参加者なんでしょ?」
「もちろんよ、みんな楽しそうでしょ?」
「うん、そう言われてみればそうね。」
「ホールの子も花嫁修業と称して手伝ってるし、よりお客様に楽しんでいただけるメニューを試してもいるのよ。」
「そう言えば、このメニュー見たことなかったわ。」
「うん…、あっ、おいしいじゃない。」
「もぐもぐ、そうねおいしいわ、あれ真子どこ行くの?」
「お~い、これ誰が作ったの?」

厨房のスタッフと言葉を交わす真子

「真子、おいしいとは言ってたけど、盛り付けに対して何か言ってなかった?」
「ええ、盛り付けも大切なのよ。」
「厨房の人、気を悪くしないかしら。」
「ふふ彼らからアドバイスを頼まれているのよ。」
「そうなんだ。」
「Lentoはみんなで作っていくお店、オーナーだけの物じゃないの、より高い次元の店を目指してスタッフ全員でよりお客様に満足していただけるように…、あ~約一名を除くかもね、ふふ。」
「それって…、そうか私のバイトランクが上がらない理由が分かった気がするわ。」
「あっと、もうこんな時間ね、私着替えて来るからね。」
「真子~、あ~行っちゃった。」

取り残された感もある葉子
改めて周りを見回す

う~ん、これがスタッフパーティーか…。
営業中と同じ様に演奏もしてるわね。
仕事じゃないのにね。
みんな演奏するのが好きなんだなぁ~。
あ、矢野さんだ。
あの人結構有名なチェロの演奏家で、確か店までは3時間かかるじゃなかったっけ。
ゲストプレイヤーも来てるって本当だったんだ。
普通にチェロ用意してるし。
あっ先崎くんがバイオリンを持って出てきた。
何時見ても、かっこいいなぁ~。
ピアノは…、もしかして和音さんかな?
スタッフも和音さんの演奏が入る日はみんな狙ってるから、ランクの低い私はシフトに入れないのよね。
もし和音さんだったらラッキーかも。
今からはピアノ三重奏ってことかしら?
あれ? 会場の雰囲気が変わった。
皆演奏に集中しようとしてるみたい。
始まるのね。
あっ! 真子が出てきた! あの衣装初めて見るわ。
ああっ! ピアノ三重奏の舞曲に合わせて真子が踊り始めた。
…。
すごい!
…。

演奏が終わってしばらくしてから真子が戻って来た

「葉子、どうだった?」
「す、すごてよかた!」
「ちょっと、日本語になってないわよ。」
「ま、真子って、お、踊りの…、ぷ、プロだったの?」
「どうしたのよ、変な物でも食べたの?」
「わ、私なんかが、は、話して、い、いいの?」
「何、緊張してるのよ。」
「ま、真子ってすごい人だったんだ、は。」
「別にすごくないわよ、時々踊ってるでしょ、ちょっと水でも飲んで落ち着いてよ。」
「うん、ごくごくごく、はぁ~。」

「落ち着いた?」
「ふ~、ちょっとじゃなく、とてもびっくりしちゃったわ。」
「何が?」
「ピアノ三重奏と真子が一つになって、おっきな絵になってた。」
「ふふ、じゃあ成功ね。」
「すごい芸術を目の当たりにしたって感じで引き込まれてしまったわ。」
「ふふ、来週金曜日が本番よ。」
「あ~! スタッフパーティってリハーサルも兼ねてるってことかぁ、しかもメチャレベルの高い…。」
「ふふ、お得でしょ?」
「は、はい。」


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