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佐山初音と浅木啓介 [Lento 1,春から初夏]

「今日からLentoのサブマネージャー見習いね、浅木くん。」
「はい、がんばります、佐山マネージャー。」
「あら、スタッフだけの時はマネージャーなんて呼ばないでね。」
「はい、佐山さん。」
「だめだめ、初音でいいわよ。」
「いや、それはちょっと…。」
「はは、仕方ないわね、じゃあ初音さんで許してあげるわ。」
「は、はい…、は、初音さん。」
「君は、浅木くんと啓介くん、どっちがいい? 他のニックネームでも良いけど。」
「高校生の頃は、浅木、啓介、両方呼ばれてました、どちらも呼び捨てにしやすいみたいです、あっ、慣れたら呼び捨てにして欲しいです。」
「そうね、君が頼れるスタッフになる頃には自然とそうなっていると思うわ。」
「がんばります。」
「他のスタッフの呼び方も、堅苦しくならない様に気をつけてあげてね。」
「はい。」
「どうでも良いことのようで大切なことなのよ。」
「職場の雰囲気を柔らかくということですか?」
「そういうことね、オーナーの白川さんからも、よく言われてるのよ。」

「一つ質問していいですか?」
「いいわよ。」
「どうして私がサブマネージャーに? まだ見習いですが。」
「そうね白川さんは色々見ておられるのよ。」
「でも皿洗いからサブマネージャーなんて思ってもいませんでした。」
「あなたは、皿洗いしながら何を考えていたかしら。」
「その質問は白川さんにもされました。」
「それで?」
「ここは皿洗いしながらでも演奏が聴ける様になってますよね。 まぁ生じゃないのが残念ですけど。」
「生で聞こえる様にしてしまうと皿洗いの音がお客様に聞こえてしまいますからね。」
「はい、で皆さんの演奏をじっくり聴いていると、その日の調子とか色々、結構判るようになってきたんです。
今日は元気がないなとか、今日は良いことあったのかなとか。」
「そう、音に出るわよね。」
「自分は音楽、素人なんですけど、ちょっと気づいた時には演奏者の人たちに声をかけたりしてたんです。」
「みんな喜んでいたわよ。」
「えっ? 大した話はしてませんよ。」

「それと前に白川さんに提案したでしょ?」
「はい、洗い場の作業効率を上げる配置の提案です。」
「配置はすぐ変わったでしょ。」
「はい、あんなにすぐ変えていただけるなんて思ってもいませんでした。」

「浅木くんのそんな所を、白川さんは皿洗い以外でも発揮して欲しいって思ってみえるの。」
「そ、そうなんですか。」
「私も期待してるわよ。」
「うわっ、何かプレッシャーですね。」

「プレッシャーね。」
「ちょっとドキドキです。」
「じゃあ大切な心構えを覚えておいてね。」
「はい。」
「うちの店のマネージャーはのんびりできなきゃだめなの。」
「のんびりですか?」
「そう、ゆったりした気持ちが大切なの。」
「でも仕事をバリバリこなすのが大切なんじゃないですか?」
「他の仕事だったらそうかもね、でもLentoはお客様にゆったりくつろいでいただく空間でしょ。」
「はい。」
「あくせく働く姿をお客様に見せたくないわけ。」
「う~ん、ちょっと考えさせて下さい…。」

「どう?」
「そうですよね、確かにのんびりしたい時に周りが、忙しくしてると落ち着きませんよね。」
「でしょ。」
「でもマネージャー、サブマネージャーって店の要じゃないんですか?」
「もちろんそうよ、だからこそ余裕が必要というのが白川さんの考えなの。」
「う~んそうなんだ、今までそういう視点で見てなかったです。」
「でも店のことほんとに考えていたら、ある意味休みなしよ。」
「えっ! そうなんですか?」
「まぁ私の場合Lentoが大好きだからなんだけどね。」
「あっ、わかる気がします。」

「じゃぁ、そろそろ朝の点検に周りましょうか。」
「はい。」
「私の場合はまず外に出ます。」

「今日も良い天気ですね。」
「そうね、庭師の土田さん達も良い仕事してくれてるみたい。」
「ほんとにきれいな庭ですよね。」
「お客さまはこの庭を眺めてからお店に入られるのよ。」
「そうか、私たち従業員とは違うわけですね。」
「でも私たちの仕事の重要な部分は…。」
「お客様とのコミュニケーション、この庭はそのきっかけにもなっているのですね。」
「そういうことね。」
「だとしたら…、え~と…。」
「浅木くん何してるの?」
「当然お客様の目に留まって注意を引くものの確認です。」
「ふふ、分かってるじゃない。」
「ちょっと、庭を散歩してきます、でもさぼってるんじゃなくて…。」
「それでいいのよ、ゆっくり散策してらっしゃい。」

しばらくして

「散策しながら思ったのですけど、ゆっくり考えていると色々な発見ができるものなんですね。」
「そうね、がんばり過ぎていると気づけないことにも目が行くものでしょ。」
「はい。」
「朝の点検はお客様をお迎えする前の最終確認、うちのスタッフは優秀だから、問題が見つかることは少ないけど、作業した人と別の視点で確認することによって、よりハイレベルな店にしていけると考えてね。」
「はい。」
「この花瓶の薔薇どう?」
「素敵ですね。」
「花びらが落ちてるわよね。」
「落ちたばかりでしょうか、それもなんか自然で良いですね。」
「落ちている花びらが、もっと多かったら、しなびた花びらだったらどう?」
「微妙ですね、人それぞれ感じ方は違うでしょうから。」
「Lentoではお客様が、手がゆき届いているなと感じることが大切なの。」
「ということは落ちた花びらはすぐに取り除くということですか?」
「いいえ、今はこのままでいいわ、でも花びらの鮮度が落ちてきたら掃除ね。」
「難しいですね。」
「花関係のスタッフは皆心得ているから大丈夫。」
「信頼してるんですね。」
「もちろんよ、でもさらに確認するのが私たちの役目だと思ってね。」
「より完璧を目指すということですね。」
「そういうこと、お客様には王侯貴族の気分に浸っていただきたいですからね。」
「そこがポイントですね?」
「そうね、まぁ夜のお客さんはまた違った感じなんだけど。」
「昼間のお客様に合わせておけば問題ないわけですね。」
「そういうことね。」


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